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後日談65
ミャーコはすぐさまアインズに掛け合う事にした。
唐突な話ではあるけれども、一度気になってしまったらどうしようもない。
ミャーコはアインズの部屋の扉を叩く。
「ミャーコです。アインズ様、ちょっとお話よろしいでしょうか」
ミャーコが部屋の中に声を掛けると、しばらくして部屋の中から返事があった。
「うむ、入っていいぞ」
「失礼致します」
アインズの許可が出た事で、ミャーコはアインズの私室に入っていく。
「どうしたんだ、改めて」
「いえ、ちょっと暇が欲しいと思いましてね」
問い掛けに対して返ってきたミャーコの答えに、アインズは首を傾げている。
「獣人の村の北側にある崖。それの秘密を知りたくなったんですよ。今まで誰も近付くなと言うだけで、知ろうとした者は居なかったですし」
ミャーコは言葉を続けている。
「それに、あの嵐の夜にやって来た連中は、あの崖の事を知っている感じでした。だったら、私も神託の巫女として、あの崖の事を知ってもいいんじゃないかと考えたのです」
真面目な顔をして語るミャーコ。その話を真剣に聞くアインズである。
ミャーコの話を聞いてしばらく考え込んでいたアインズだが、
「よし分かった。帰省を兼ねて調べに行く事を許可しよう。ミャーコはあくまで代理だからな。私が居るのなら基本的に自由にしてもらって何の問題もないんだからな」
「ありがとうございます、アインズ様」
そう言って頭を下げるミャーコ。
「ミャーコが居ない間、スフレの事は私に任せてもらおう。これでも夫なんだからな」
「心強いですね、アインズ様」
アインズの宣誓に、ミャーコはにっこりと微笑んで部屋を出ていった。
そこからのミャーコの準備は早かった。ただ、まだ十六歳という年齢と女性という事を考えると、一人で旅をさせるわけにはいかない。というわけで、アインズは二名ほどの護衛をつける事にした。
アインズの屋敷から獣人の村までは、アインズの屋敷から王都までとほぼ等しい距離にあるので、勾配を考慮に入れれば馬車で四日掛かるような場所だ。ミャーコが話題にしている崖は、獣人の村へ向かう途中の右手に広がっている。ただ、街道と崖の間には、入れないように柵が設けられている。それゆえに、存在を知っていても、実際に見た事がある人物はそんなに多くないのである。
ちなみにの話だが、あの嵐の夜は崖の近くまで行ったようだった。しかし、天気が荒れすぎていたのでミャーコはそれに気が付いていなかったのである。
屋敷を出発したミャーコは、馬を駆って村へと向かう。馬車ではなく馬であれば、早ければ一日で着く事ができるのだ。なるべく仕事に穴を開けたくないミャーコなのである。
もちろん、ミャーコが駆る馬はハリケーンサイトである。齢十一になったとはいえど、そこは衰え知らずのハリケーンサイトである。護衛が乗る若い馬にまったく引けを取らないどころか軽く上回っていた。
『はっはっはっ、まだまだひよっこよな。この俺様について来れるか?』
「ケーン、やめなさいってば! 競争じゃないんだから、引き離すんじゃないわよ!」
若い馬を挑発するハリケーンサイト。それをしっかりと叱るミャーコ。このコンビも相変わらず健在だった。
こうやってハリケーンサイトが速度を釣り上げるものだから、本当に朝早く出てその日の暮れ頃には獣人の村に着いてしまったのだった。馬上でミャーコはちょっと息を切らしていたし、ついて来ていたお供の馬たちもヘロヘロである。
だが、この状況を引き起こしたハリケーンサイトはぴんぴんとしていた。なんでこんなに元気なんだろうか。
『ふん、軟弱者どもめが。その程度で公爵家の馬を務められると思うな?』
『は、はい……』
ハリケーンサイトが睨み付けると、護衛の乗ってきた馬たちがものすごく怯んでいた。完全に分からされたようである。
そんなこんなでいろいろあったものの、ミャーコはまたこうやって故郷の村に足を踏み入れたのだった。
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