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後日談66
村に到着したミャーコは、ハリケーンサイトから降りて歩き出す。
前回の訪問から一年も経っていないのだが、ずいぶんと懐かしく感じる景色だった。
「あら、ミャーコちゃんじゃないの」
「本当だ、ミャーコが帰ってきたぞ」
村人に発見されたミャーコは、早速みんなにその存在を教えられてしまう。狭い村の中なので、広がるのはあっという間だった。
「おーミャーコ、お帰り」
「ミャーコだけなのかい? 今日は他のは居ないのかい?」
村の中を歩いていたら、あっという間にミャーコは村人に囲まれてしまった。なんで昼間からこんなに人が集まってくるのだろうか。みんな作業はいいのだろうか。
「落ち着かないか、村人たちよ」
収拾がつきそうにないと見た護衛の兵士が村人たちを制止する。
「こちらはミャーコ・グラスフィルド男爵様だ。貴族となられた以上は、ミャーコ様への安易な行動は慎んでもらいたい」
兵士がミャーコの身分を明かすと、村人たちは驚いた表情で見ている。
「ミャーコ、貴族になったのかい?」
村人が尋ねてくるので、ミャーコは証拠となる胸に着いている勲章を見せる。普段は外してポケットに入っているのだが、村への移動中だったために分かりやすく胸に着けていたのだ。
「おやまあ、これが貴族様の爵位を示す勲章かね。初めて見たよ」
ところがどっこい、この言葉でも分かる通り、村人はまったく勲章の事を知らなかった。貴族自体は来た事があるにしても、まったく気にした事がなかったのである。そのくらい、この獣人の村は外界との隔たりが大きいのであった。
「ところで、ミャーコ……様は何をしにき……来られたんですか?」
貴族だと知らされて言葉遣いを直しながら村人が尋ねてくる。これにはさすがにミャーコも笑い出しそうになっていた。
「いいのよ、今まで通りの言葉遣いで。無理しないでよ」
笑いをこらえながら、ミャーコは村人たちに言っておく。
「理由はみんなには話せないかな。村長にとりあえず会いたいの。家にいらっしゃるかしらね」
「はい、村長でしたら家にいらっしゃいますよ」
ミャーコが用件を口にすると、村人たちは見合って案内役を目だけで決めていた。そして、選ばれた一人以外はそそくさと作業へと戻っていった。相変わらずこういうところは早いものである。
「では、案内しますね」
残った村人について行くミャーコと護衛の兵士。
そして、ものの数分程度で村長の家に到着した。
「村長、ミャーコが戻ってきました」
案内役の村人が家の中へ声を掛けると、
「そうか、入ってもらいなさい」
許可する声が返ってきた。その声に従って家の中に入ると、獣人の村の村長が立っていた。かなりの高齢のはずだが、その腰や背筋はピンと真っすぐしており、まだまだ元気そうだった。
「おお、ミャーコお帰りなさい。長旅お疲れだったでしょう、今日はゆっくり休んでおくれ」
「村長、折り入ってお話があります」
村長の挨拶に対し、ミャーコは単刀直入に話を始める。そして、兵士にちらりと目をやると、護衛の兵士たちは案内役の村人を連れて家を出ていった。
「はて、話とは何ですかな、ミャーコ」
兵士たちが出ていったのを確認すると、村長はミャーコに問い掛ける。
すると、ミャーコはちょっと視線を泳がせた後、深呼吸を一つして村長をしっかりと見据える。
「実は、調べ物をしたくて村に戻ってきました」
「ほほぉ、調べ物とは?」
ミャーコの言葉にすぐに質問を飛ばす村長。この質問に、ミャーコは表情をキリッと引き締める
「村の北側にある、大きな崖の事を調べたいのです」
ミャーコのこの言葉に、村長は大きく目を見開いて驚いていた。
「まさか、あれを調べると言うのか?」
村長が確認をすると、ミャーコはこくりと頷いた。
「やめておけ、あれだけは絶対触ってはならぬ。絶対にだ」
村長が力強く止めようとするが、ミャーコは静かに首を横に振った。
「あの崖は、スフレが一度放り込まれそうになったもの。その事実がある限り、あの崖から目を逸らしちゃいけない気がします。私が神託の巫女として、貴族としてできる事のひとつだと思っています」
ミャーコは強く決意をしていたのだった。
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