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後日談67
実に引き締まった表情で村長を見るミャーコ。そこには明らかな決意が現れているのだが、村長からの答えは決まっていた。
「ダメじゃな。あの崖は絶対近付いてはならん。これは村の掟じゃ」
答えははっきりとした『ノー』だった。
それでもミャーコは引かなかった。
「村の掟ですものね。ですが、今の私はドッグワイズ公爵の補佐官であるグラスフィルド男爵です。村の出身とはいえど、もう村の住民ではありません。ここへ来たのも、村への筋を通すものとして来ただけです」
はっきりと自分はよそ者だと言い放ったのである。
これにはさすがに村長も「むむむ」と唸る。まさかこんな方法で切り抜けてこようとは、正直してやられた感じである。
「……本気なのじゃな、ミャーコ」
ミャーコに完璧にやられてしまった村長だが、さすがにそうですかとはいかなかった。改めてミャーコに確認する。すると、ミャーコはこくりと頷いた。
「なぜそこまでして村があの崖を危険視して忌避するのか、はっきりさせておく必要があると思うんです。それこそスフレを苦しめた破滅の存在が居るというのなら、なおさらです」
ミャーコの決意にはまったく揺らぎはなかった。真っすぐと村長を見て、自分の意見を言い切ったのだ。
このミャーコの固い決意に、村長は折れ……なかった。
「ミャーコよ、その意志の強さは受け取った。じゃが、わしは獣人たちの長としてそれは許可できない。わしらとて何もしてなかったわけではないぞ。とりあえず、わしについてきなさい」
「分かりました」
村長がそう言うので、ミャーコは仕方なくそれに従う。
村長の家の外に出ると、ミャーコのついてきた兵士たちが居た。
「男爵様、我々はいかが致しましょうか」
どうやらミャーコに指示を求めているようだった。ミャーコは少し村長に待ってもらって、付き添いの兵士たちに指示を出す。
「ここは私の故郷です。特に問題はないでしょうから、村の警備の手伝いをお願いします」
「はっ、畏まりました!」
兵士たちは元気よく返事をすると、自警団の詰め所へと走っていった。
「彼らはつき合わせないのかな?」
「これはあくまでも獣人としての問題ですからね。アインズ様の大事な部下ですから、私の一存で危険な目に遭わせるのは、よほどの場合でなければ避けるべきなんです」
村長の質問に、ミャーコはきっぱりと言い切っていた。あくまでも自分の問題だという認識のようである。
村長はそのミャーコの意見に納得がいったのか、無言のままミャーコを連れて移動していく。
やって来たのは、村の書庫だった。こんな山奥の村でも、書物は保管されているのである。ドクトルおじさんが医者をしていられるのも、こういった書庫があるからで、意外といろんな書物があるようだった。ただし、知る人ぞ知るといった場所である。
「多分、ミャーコが求めるものはこの中には無いかも知れん。じゃが、この村の知識のすべてはここにあるといってもいい場所だ。……気の済むまで読むといい。ただし、ちゃんと生活はしておくれ」
「ありがとうございます。食事と睡眠はちゃんと取りますから、安心して下さい。私だっていつまでも子どもじゃないんですからね」
村長の注意を聞き入れるミャーコである。崖に近付くなという注意は聞き入れなかったというのに、それはそれ、これはこれの状態である。
村長と別れて書庫へと入っていくミャーコ。はたしてここに求めている情報はあるのだろうか。
書庫の中は意外とたくさんの本があり、外界との交流の乏しかった獣人の村とは思えない充実っぷりである。
(これだけの本があるのなら、私の求める情報もきっとあるはず。時間の許す限り調べ尽くしてやるわよ)
たくさんの本を前に、ミャーコは決意をしていた。
なにせ、転生前は活字が苦手だったのだ。これだけの本が相手となると、めまいがしてくる思いである。
それでも、この世界における破滅と神託の関係を調べ上げるために、ミャーコは両頬を手で叩いて気合いを入れて臨むのだった。
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