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後日談68
さすがに学園時代に本に慣れ親しんだものだが、自分から望んで本を読むというのは慣れない事をしたと思うミャーコである。
開幕本を投げそうになったのだ。
今暮らしている王国で使われる文字はすべて読み書きできると思っていたのだが、いきなり知らない文字が出てきたのだ。投げたくもなるものである。
とはいえ、友人であるスフレのためでもあるので、ミャーコはとにかく頑張って本を読んだ。神託と破滅の関係をのすべてを解き明かすために。
「ふぅ、読めない文字は古代語っていったところかしらね。ある程度法則性があったから、どうにか読む事ができたわね。でも、まだ何百冊と転がっているから、この調子じゃひと月どころじゃ済まなさそうね……」
獣人の村の書庫は大して大きくはないが、そこに所蔵されていた本はかなりの数がある。しかも、今は使われていない文字で書かれているものもあって、解読しながらなのでかなり時間がかかりそうなのである。
普通なら投げてしまいたくなるような状況だが、ミャーコはスフレのためという一点だけで頑張り続けるのだった。
その夜、書庫から出てきたミャーコは自分の生まれ育った家に戻った。
「ミャーコや、よく戻ってきたね」
「まったくだ。しかも爵位を得たらしいな。すごいじゃないか」
両親から熱烈な歓迎を受けるミャーコ。それに対して、照れ笑いをしていた。
「でも、今日はどうして一人なのかしら。まさか何かをやらかしたの?」
ところが、次の瞬間、不安を口にする母親である。まあ娘が一人で突然帰ってきたら、かえって心配になるのだろう。
「一人じゃないわよ、一応護衛の兵士も二人ついてるから。村の中では別行動してもらってるけど」
心配そうな母親に対して、ミャーコは笑いながら返す。そういうと、ようやく母親は安心していたようだった。
食事をしている最中だった。突然母親が切り出す。
「そういえば、ミャーコはいつ子どもを見せてくれるんだい?」
「ぶっふぉっ!」
いきなりぶっ込んできた話題に、ミャーコは思わず吹き出してしまう。ハンカチを取り出して口の周りを拭うミャーコは、母親をじっと見ている。
「だって、そうでしょ? スフレちゃんは結婚したし、ボルテくんやリッジくんももう結婚するかもって手紙が来てたのよ。そういう話を聞かないのは、ミャーコだけなんだからね」
「うぐぐぐ……」
ミャーコは現実を突きつけられて、口ごもってしまう。スフレの結婚は目の前で見たのだが、まさかボルテやリッジにまでそういう話が出ているとは思ってもみなかったのだ。
なにぶんボルテとリッジの二人は王都暮らしだ。ミャーコやスフレと接点が薄くなって久しい。そのせいで二人の現状を把握できてなかったので、ミャーコのショックはなおさら強かったようだった。
ミャーコたちは今年で17歳だ。そうとなれば、大体は結婚が視野に入っている時期になる。貴族となればほぼ確実に結婚が済んでいるのである。とはいっても、ミャーコは貴族になりたてなので例外なのだが。
ところが、両親にとってはそんな事はどうでもよかった。実は獣人の村も大体そのくらいの年齢になると結婚するのである。つまり、ミャーコは王国貴族たちの慣習と獣人の村の慣習の両方から結婚を迫られている状態なのである。知らなかったとはいえ、その圧力は着実にミャーコに迫ってきているのである。
「はあ、私は自分の結婚くらい自分で決めるわよ。今は相手が居ないってだけよ。心配しないでよ、お母さん、お父さん」
ため息を吐きながら両親にそう言うミャーコ。だが、両親は相手が居るようには思えないミャーコを心配そうに眺めている。しかし、ミャーコにしてみれば、それは余計なお世話なのだ。
「もう、私の事は私に任せておいてよ。今の私は貴族よ。自分の事くらい自分でやるわよ!」
ミャーコは食事を終えて、怒りながら席を立ってしまった。両親は最後まで心配そうにその背中を見送っていたのである。
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