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後日談69
翌日、ミャーコは朝から出掛けていた。両親相手に怒った事もあってか、ちょっと家に居づらかったのだ。
そんなわけで、ミャーコはハリケーンサイトを駆って、例の崖の方へと向かっていた。
ところが、ある程度進んだところで、ハリケーンサイトの足が鈍る。
『小娘、さすがにこれ以上は危険だぞ。いやな雰囲気がバシバシと伝わってくる。この俺様の足を止めさせるほどの強力なものだ。やめておいた方がいい』
ハリケーンサイトのこの言葉に、ミャーコは顔を険しくする。
「……そうね。私もひしひしと嫌な感じを受けているわ。まるで神託の巫女を拒む感のような怨念じみた声がするわ。……あの時は嵐だったから気が付かなかったのね」
崖の方向から漂ってくる気持ち悪い雰囲気に、さすがにミャーコも諦めざるを得なかった。
崖まではまだ距離があるものの、どうしてもこれ以上進む事ができない。天気も雲一つない晴天だというのに、そこから先はまるで嵐の中を進むような感覚である。
「仕方ない、引き返しましょう」
『うむ、それが賢明だ』
ミャーコはやむなく引き返す。だが、実はこれはとても賢明な判断だったのだ。その事をこの時のミャーコは知る由もなかった。
村へと戻ったミャーコは、ハリケーンサイトを労いながら馬小屋に預けると、再び書庫へと向かう。ちなみに昼食はこの際に済ませておいた。
結局崖に直接向かっての調査は困難だったがゆえに、村の書庫を読み漁るしかなさそうだったのだ。
「まっ、仕方ないわね」
ミャーコはため息と一緒に言葉を吐き出していた。
結局、陽が暮れるまでの間、書庫に閉じこもっていたミャーコ。数時間という時間ではあったが、十数冊を読む事ができたようである。
しかし、肝心の欲しい情報は手に入らずじまいで、耳も尻尾もしょげしょげとしていた。
「あら、お帰り、ミャーコ」
「ただいま……」
実家に戻ったミャーコは、しょげしょげしたままの状態だった。
「どうしたのよ、一体」
「うーん、何の進展もなかったのよ。スフレに宿った破滅の力とか、獣人を誕生させた破滅の巫女の話とか、詳しい情報が手に入るかと思ったに」
心配そうに声を掛けてくる母親に、落胆のあまりにミャーコは情報をべらべらと喋っていた。だが、それに対して母親は何を言っているのか分からないといった感じで首を傾げていた。一般的な獣人には分からない話なのである。
「その破滅のなんとかってなんなの、ミャーコ」
「うん? まあそれはまたゆっくり。とりあえずは書庫の本を全部読み切らなくちゃ……」
母親の質問に答える事なく、ミャーコはぶつぶつと言いながら自分の部屋へと引き上げていったのだった。その様子を見ていた母親は、ただただ首を傾げるだけだった。
この日以降も、ただひたすらに書庫の本を読み漁ったミャーコだったが、数日間の引きこもりの結果、結局書庫からは何の情報も得られなかったのだった。
「おかしいなぁ……。スフレという破滅の巫女が出現したし、スフレをさらった連中はスフレをあの崖に放り込もうとしていたんだから、ここには破滅の存在に関する何らかの情報があると思ったんだけど……」
すべてを読み終わったミャーコは、壁にもたれ掛かりながら背伸びをしている。
だが、次の瞬間だった。
ガタンと背中の壁がいきなり外れたのである。
「うわわっ!」
急に背もたれが無くなった事で、ミャーコはそのまま背中方向に倒れてしまう。
ドターンという音と共に、たくさんの埃が舞い上がる。
「げほっげほっ、な、何なのよ……」
体を起こしたミャーコが埃の舞う空間へと視線を向けると、そこにはたくさんの本が並んでいた。どうやら、そこは書庫に隠された秘密の部屋だったようである。
諦めかけたところで思わぬ発見である。これにはミャーコも興奮を覚えた。
「これでもうしばらくは引きこもれそうね!」
にっこにこで隠し書庫の中の本を読み漁り始めるミャーコだった。
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