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後日談73
領主邸に戻ったミャーコは、すぐさまアインズに会いに行く。獣人の村で見つけた隠された書庫についての報告のためである。
「アインズ様、よろしいでしょうか」
「おお、ミャーコか。戻ってきたか」
「はい、面白いものを発見したがゆえに、滞在が延びてしまいました。ご迷惑を掛けた事は謝罪致します」
「立ち話もなんだ。入ってきてくれ」
ミャーコの話を聞いたアインズは、ミャーコを部屋に迎え入れる。すると、そこにスフレも居た。
「あれ、スフレ居たの?」
「ええ、今日は私も手伝わさせて頂いてます。ミャーコちゃんが帰ってくる気がしましたからね」
「もう、変なところで勘が鋭いんだから……」
スフレがにこにこして立っているものだから、ミャーコはしょうがないなといった表情でスフレを見ていた。
「ミャーコちゃん、とにかく村での報告を聞かせてほしいな」
「分かったわよ、スフレ。とりあえず落ち着こう?」
食い気味に迫ってくるスフレの肩をしっかりと押さえるミャーコ。あれだけ気の弱い子だったのにどうしてこうなっているのだろうか。不思議でならないミャーコである。
気にはなるところではあるものの、とりあえずミャーコは獣人の村での話を報告する。アインズはその話を真剣に聞いているし、スフレは隠された書庫について驚いていた。
「村のみんなが元気そうなのは安心したけど、あの外れにあった書庫にそんな部屋があったなんて知らなかったわ」
「私も初めて知ったわよ。今まで何も起きなかったわけだしね、あそこ」
スフレの驚きにミャーコは頷きながら話をしている。
「つまり何か。何らかの条件が揃った事で隠し部屋が現れたという事か」
「そういう事でしょうね。ただ、その条件が何かは分かりませんけどね」
アインズとミャーコはしばらく唸っていた。
「ねえねえ、ミャーコちゃん。チアベル様にも報告するの?」
「うん? ええ、そのつもりよ。私の前世の友人で神託の巫女なんだから、知っておいてもいいと思うわ。おそらく私と同じで部屋に入れるはずだもの」
スフレの問い掛けに答えるミャーコである。推測ではあるものの、どこか確信を持っているのである。ちなみにその根拠は自分である。
だが、ミャーコはすぐには動かなかった。
「本当ならすぐにでも確認に行きたかったけれど、スフレもチアベルも子どもが生まれて間もないから、今年はやめておこうと思います」
「うむ、その方が賢明だな。領内視察に連れて回った私が言う事ではないが、今はゆっくり体を休ませた方がいいだろうからな」
「アインズ様……」
ミャーコの意見に同意するアインズ。それに対してスフレは嬉しそうな顔をしていた。この惚気である。
「こほん……。だが、この事はチアベルの耳にも入れておくべきだな。すぐに王都に行って会えるように手配をしておこう。ちゃんと手続きをしないと、会うのも困難だからな」
すぐさまアインズは手紙を認め始めた。こういう時には行動が早い。
あっという間に手紙を書き終わったアインズは、部下に命じてすぐに王都へと使いを出してしまった。
「というわけだ。こっちの事なら心配するな。ミャーコにしかできない事をやってくれれば、それでいいんだよ」
理解の高いアインズである。
「とはいえ、さすがに空けすぎたから、明後日まではここで仕事をしていってくれ。それを考慮した上で手紙には認めておいたからな」
「承知致しました。本当に有能な領主様ですね」
アインズに対して、ちょっと嫌みったらしく返すミャーコである。
とはいえ、これで正式に王都へ行く事ができる。チアベルにうまく話をつけられれば、グラスやペティアにも協力を仰げるだろう。
獣人の村の近くの大きくて深い崖の謎。その謎が解ける時はそう遠くないのかも知れない。
ミャーコは淡い期待を抱きつつ、領主邸でしばしの羽伸ばしをして過ごすのだった。
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