後日談75

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後日談75

 城に到着すると、チアベルは祈祷のために離脱してしまう。  仕方なく、ミャーコはペティアと一緒にグラスのところへとやって来た。 「やあ、ミャーコくん。実に久しぶりだね」 「年末以来ですかね、グラスさん」  グラスは元気そうに語りかけてきた。  しかし、その姿はかなり弱っているようにも見える。今のグラスは猫だから、猫の寿命分しか生きられないのだろう。  この王国一帯だけ猫も犬もすべて獣人化してしまっているので、今の王国の人間は、猫や犬の本来の寿命を知らない。  ミャーコの記憶が確かならば、十五年前後といったところだ。少なくともミャーコと会ってから七年は経過している。それまで何年生きていたのかは分からないが、出会った頃の状態を考えると、少なくとも十年は既に生きていると思われた。  しかも、前世の世界のようにある程度整った環境で十五年前後なのだから、この中世から近世っぽい世界の中なら、寿命はもう少し短いだろう。つまり、グラスの老い先は短いと思われる。 「私の事は気にしなくていいよ。この姿に転生した時からそれほど長くないのは分かっていたさ。既に何回も転生をしている身だし、今さら死ぬのは怖くもない」  ミャーコの顔を見て察したのか、グラスは安心させようとしてミャーコに話し掛けてきた。 「そんな顔をするな。生き物はいずれは死ぬ。例外など、そこのペティアくらいなものだ。それに、私は転生の力を持っている。きっとまたどこかで会えるさ……」  泣きそうになるミャーコを見ながら、グラスは必死に宥めようとしていた。これが転生しながらも長く生きてきた者の余裕というものだろうか。 「私でどうにかできればいいのだがな。さすがに寿命を延ばす、そんな都合のいい魔法なんざありゃせんのだよ。……もうこれで何度目だろうかね」  ペティアも悟りきっていた。 「だが、今生きている限りは、できる限り付き合わさせてもらうさ。それが前世も今世も先輩たる私の務めだろう?」  グラスは弱々しくもにやりと笑った。  とはいえだ、ここまで弱った姿を見せられては無茶をさせられるわけがない。ミャーコもペティアもその顔を見合わせてため息を吐いた。 「それで、ミャーコくんは何の用で私のところに来たんだい?」  グラスが改めてミャーコに問い掛けてきた。  この問い掛けに、ミャーコはそうだったと用件を思い出していた。弱った姿のグラスに驚いて、すっかり頭から抜け落ちてしまったのだ。 「そうでした。話というのは実はですね……」  ミャーコはグラスに対して、獣人の村の近くの崖の事、獣人の村に隠された書庫があった事など、先日の帰省で掴んだ事実をいろいろとグラスに打ち明けた。すると、グラスは妙に考え込んだ仕草を取っていた。  ずいぶんと長く考え込むために、ミャーコはドキドキと緊張しっぱなしになっている。 「ふむ、崖の事も気になるが、隠された書庫というのは気になるな。君が入れて村長が入れないというのは気になるな……。神託の巫女しか入れないのであるなら、ペティアが入れない可能性は十分にあり得る話だからな」 「確かにそうだな。私は神託の両親を持つ子どもだけれど、神託そのものではないからね」  グラスの話に、ペティアは納得しているようだった。 「しかしだ。どうもミャーコくんの話を聞いていると、チアベルくんも連れて行くつもりのように思えるね。どうなんだい?」  グラスに問われて目を丸くするミャーコ。しっかりと見抜かれた事に驚いているようだった。そこはさすが年の功といった感じなのである。 「まぁそんな感じですね。別に本を読むだけなら私だけでもいいんですけど、崖の事を視野に入れると、その場で共有した方がいいと思いますから」  ミャーコは頭を掻きながら答えていた。 「まあそうだねぇ。私も神託の一人として、その怪しげな崖は気になる。実際に見てみれば何か分かるかも知れない」  グラスは乗り気のようだった。  とはいえ、まだチアベルの意見を聞いていないので、とりあえず今は保留。国王たちとも相談の上、最終的な判断をする方向で決まったのだった。
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