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後日談76
チアベルの祈祷がまだ終わらないので、ミャーコはグラスとペティアを伴って国王ところへと出向く。
簡単に会う事のできないのが国王ではあるが、さすがに神託二人と国唯一の魔法使いがやって来たとなれば、仕事を放り出してまで顔を合わせる選択を取るのである。そのくらい神託というのはこの世界において大きな存在なのだ。
「何の用かな」
国王と会ったのは執務室だ。隣ではアレックス王子も執務にあたっていた。国王と王太子が一緒に居るのは実に好都合な話である。
「王太子殿下もご一緒とは、実に好都合です。申し訳ございません、ちょっとお話よろしいでしょうか」
ミャーコは実に堂々と国王たちに話し掛ける。あまりに突然の事に、国王とアレックスは手を止めて顔を見合わせていた。
「まあ構わんよ。何なりと申してみるがよいぞ」
国王がこう答えてくるので、ミャーコはひと呼吸を置いてから発言し始める。
「来年のつもりでいるのですが、チアベル様とグラスさんとペティアさんを獣人の村に連れて行きたいのです」
「その理由は?」
ミャーコの発言に、当然国王は首を捻る。
「実は、獣人の村の書庫にて隠し部屋を発見したのです。村長は入れず、私だけが入れたものですからちょっと気になりましてね。もしかしたら、神託の巫女であれば入れるのではないかと考えたのです」
国王とアレックスは黙って聞いている。
「なにぶん、書庫の隠し部屋の本は外へ持ち出せません。何度試してもダメでしたので、こればかりはどうにもなりません。なので、神託の関係者をこれでもかと連れていっていろいろ試してみたいのですよ」
ミャーコは妙に興奮気味にしていた。よっぽど書庫の本が気になっているようだった。
「しかし、その書庫の本は一体どんなものだったのだ?」
「それはですね……」
国王からの問い掛けに、ミャーコはどうにか読む事のできた部分を話す。どうやら記憶にとどめておけば話せるようである。
「読めた部分だけだとそんな感じですね。私がずっと閉じこもって読めればいいんですけれど、なにぶん、男爵を頂いてしまいましたし、ドッグワイズ領の仕事もありますからね……」
ミャーコは腕を組んで唸っていた。
「それで、問題は村の近くにある崖なんです」
「ああ、国の地形の事は把握しているが、あの近くに切り立った深い崖があるらしいな」
「ええ、今もお話しましたが、その崖と破滅の存在が何かしら関係ありそうなんです。もし崖に向かう事になると、どうしても私一人では無理ですから……。それでもみんなにも来てもらおうというわけですね」
「ふむ……」
話を聞いて、国王は考え込んでいた。
「でも、チアベル様もスフレも子どもを産んだばかりですから、それ余裕を持たせて来年っていう予定にしているんです」
「あらあら、ずいぶんと勝手に話進めちゃってるのね」
「いす……チアベル様?!」
唐突に声が聞こえてる。
扉の方を見ると、祈祷を終えたチアベルがひょっこりと顔を覗かせていた。これにはさすがに驚かされてしまう。ちなみにだが、グラスとペティアはまったく動じていなかった。ミャーコのやり取りを黙って見ているだけなので、相当に余裕があったからである。
「ふぅ、やれやれだね」
「ああ、まったくだ」
にこにこと笑うチアベルに、あうあうと慌てふためくミャーコ。二人を見ながらグラスとペティアがほっこりとした表情で笑っていた。
「まったく水臭いわよ、ミャーコ。私にそんなに気を遣わなくてもいいんだから」
「いや、だって、今のいす……チアベル様は王太子妃なんだから、そんなほいほい動かしていい存在じゃないでしょう?!」
にこにこと話すチアベルに対して、ミャーコはもうどうしたらいいのか分からないといった感じになっていた。
「破滅の存在を二度と出てこれないようにすれば、これ以上の悲劇は繰り返されないのよ? 試してみる価値ってあると思うのよ」
「ええ、まあ……」
ミャーコは完全にたじたじになっている。
こうなってしまうと国王たちにも止められない。チアベルの強引な一存で、年明けの予定が決められてしまったのだった。
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