後日談77

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後日談77

 その夜の事、ミャーコは眠れないのか、部屋のバルコニーに出て夜空を眺めていた。  この世界の空も、前世と変わらずに真っ暗な中に星が瞬いている。ミャーコは尻尾をゆらゆらと揺らしながら、その夜空をじっと見つめていた。  さっと夜風がひげを撫でる。 (はあ、いすずってばあんなに強引だったかしらね……)  悩みの種はチアベルの事だった。  それというのも、来年に今世でのミャーコの故郷である獣人の村に行く話はしたものの、ミャーコは無理ならというお願いのつもりで話をしたはずなのだ。ところが、それを聞いていたチアベルは、それを了承して強引に話を打ち切ってしまった。国王やアレックスに反論させずにだ。  あの姿はまるで前世の自分を見ている気分だったミャーコである。  とはいえ、これで来年、獣人の村に神託を一人多く乗り込ませられる。これで隠された書庫の情報はより共有できるはずである。その点では、ミャーコは少し安心したようだった。  これでスフレも連れて行けるようになれば、今代の神託の巫女と破滅の巫女が揃う事になる。そうなれば、あの崖の秘密を解き明かす事ができるかも知れない。そう考えると、ミャーコは自然と拳に力が入る。 (これ以上、私たちと同じ思いをする人を増やしてなるもんですか。この世界の秘密、私が生きている間に絶対解き明かしてやるんだから!)  ミャーコは気合いを入れると、客室へと引っ込んで眠る事にしたのだった。  翌日、朝食を終えたミャーコのところにボルテがやって来た。 「よう、ミャーコ」 「あら、ボルテじゃないの。さぼってるの?」 「んなわけないだろ」  ミャーコが意地悪そうにいると、ボルテは怒って反論してきた。 「じゃあ、なんでここに居るのよ。持ち場じゃないでしょう?」 「まぁなんだ。せっかく王都に来たんだから、リッジに会ってかないのかと思ってな」 「あー」  ボルテに言われて思い出すミャーコである。そういえば植物園に居た頃に、植物学者になるとかどうとか言っていたような気がする。  王都に久々に来たし、このまま帰るのもどうかと思うミャーコ。ボルテの誘いに乗って、懐かしの学園へと向かう事にしたのだった。  そして、やって来た学園。卒業からたったの二年だというのに、すべてが懐かしく思える。 「うわあ、ここもそのままね」 「まだ二年だぞ。簡単に変わってたまるかよ」  感動するミャーコにボルテが冷静にツッコミを入れる。  昔を思えばボルテも成長したものだ。ツッコミを入れられるくらいになるとは、誰が思っただろうか。  そんな冗談はさておき、ボルテの付き添いの下、ミャーコは学園へと入っていく。一応入口の事務のところで入場許可は受けておく。その際、事務の人から思い切り懐かしがられたミャーコである。学園の厩舎にはしょっちゅう顔を出していたせいですっかり覚えられていたのだ。ただでさえ目立つ猫の獣人だから、なおの事である。そんなわけで、入場許可はあっさり下りたのであった。 「さすがミャーコ、有名人だな」 「ま、まあね……」  ボルテに言われて気まずそうに視線を逸らすミャーコだった。  尻尾をゆらりゆらりとさせながら、二人は学園にある植物園へとやって来る。話の通りならば、今もここにリッジが通い詰めているはずである。 「この植物園もそのままね……」  ミャーコはパッと見てそう呟いた。なにせ、最初の時に騒いだまたたびの木もそのままだったからだ。ついその光景にクスッとしてしまうミャーコである。 「おーいリッジ、居るか?」  感傷に浸るミャーコを無視して、ボルテが植物園の中に呼び掛ける。  すると奥の方からのっそりと何かが出てきた。 「なんだよ。この声はボルテかい?」  垂れ下がった耳と尻尾にしなびたひげ。眼鏡に薄汚れた白衣。見るからに汚そうな姿をした猫の獣人が、ミャーコたちの目の前に出てきたのだった。
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