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後日談79
「知ってると思うけれど、僕が研究していたのは植物に関するすべてなんだ」
「やっぱりね」
リッジの答えにミャーコは一瞬の隙もなくツッコミを入れていた。分かり切っていた事だからだ。それ以外に何を行っているというのだろうかというわけである。
「でも、最近はあらゆる環境に適応できる植物が主な研究内容なんだ」
「へえ、寒さに強かったり、乾燥していても育ったりって事かしら」
眼鏡がキランと光って得意げになるリッジだったが、ミャーコはものの見事に一刀両断である。遠慮がない。
「もうちょっと食いついてくれてもいいじゃないか!」
困った顔をして怒鳴るリッジだが、ミャーコはまったく動じていない。公爵家で領主代理をしている上に、男爵位までも得てしまったのだ。多少の事で驚いたりはしないのである。
「リッジ、諦めろ。ミャーコは昔っからこうだろうが」
追い打ちをかけるボルテだが、これにはミャーコがカチンとくる。明らかに悪口だからだ。
「ボルテ? あなたは一体何を言っているのかしら?」
眉をぴくぴくと引きつらせながら、笑顔でボルテを睨むミャーコである。そのミャーコの顔を見て、思わず顔を背けてしまっていた。
その様子を懐かしく思ったリッジだったが、咳払いをして気を取り直す。
「まぁ、寒冷地や冷害でも育つとかそういう特殊な植物の開発には力を入れたけどね。今回特に力を入れたのはこれなんだ」
そう言って、リッジは何の変哲もない種を取り出した。
「なにかしら、これは」
不思議そうに種を覗き込むミャーコ。ミャーコの態度を見て思わず得意げになるリッジである。
にやにやとして黙っているリッジに、ミャーコが苛立ちを露わにしている。さすがにミャーコの剣幕を前にしては、リッジのにやけ顔もそう長くはもたなかった。
「分かった……。話す、話すから!」
リッジは慌てふためていて、姿と呼吸を整え始めた。さっきからずっとしかめっ面だったミャーコの表情が、ようやく普通の顔になった。
これでようやくリッジはほっと胸をなでおろすのだが、その姿を見てボルテが笑っていた。
「話すのはいいけど、実物を見てもらった方がいいから、植物園へ移動しても構わないかな」
「ええ、実物があった方がこちらとしても助かるわ」
リッジが確認を取ってくると、間髪入れずにミャーコはそれを了承する。対応の早さはさすが幼馴染みといったところだ。
再び植物園に戻ってくる。
相変わらず周りを木の柵で囲まれたまたたびの木が目立つ。その横を通り抜けて、リッジは自分の研究室へとやって来る。その一角には、なんとも取ってつけたような妙な空間があった。
「リッジ、ここは何かしら」
ミャーコが気になって近付いていく。
「ああ、そこは開けないでほしいな」
慌てて止めるリッジに、ミャーコはぴたりと動きを止めた。
「何を隠しているのよ」
急に止められたミャーコは、振り返りながらジト目を向ける。今のリッジは年頃だからか、ミャーコは怪しんでいるようだ。
「何を考えてるんだ、ミャーコ。リッジにそういう頭があると思うか?」
「分からないわよ。もう十七歳なんだから」
ボルテに突っ込まれるミャーコだが、両手を腰に当てて腰を曲げながらリッジを睨み続けている。
「まったく、何の話をしているんだよ。そこには僕の研究の今が詰まっているんだよ」
リッジが怒っている。どうやら本当に単に研究のためのスペースのようだった。それが分かると、ミャーコはすっと姿勢を正した。
「とりあえず座ってよ」
リッジは部屋を出て行き、しばらくするとホットミルクを持って戻ってくる。
「いろいろな植物の品種改良に取り組んでいるけれど、まだどれも実現には至っていないんだ」
「そうでしょうね。実現していたら、今頃は大騒ぎだわ」
リッジの話に冷静にツッコミを入れるミャーコ。反応が早い。
「で、そこの部屋で研究しているのが、光がなくても育つ植物ってやつなんだ」
続けて出てきたリッジの突拍子もない話に、目を素早く瞬きさせてしまうミャーコだった。
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