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後日談80
「光がなくても育つ植物?!」
リッジが話した言葉に耳を疑うミャーコである。
「ほら、ミャーコが以前話してたじゃないか、村近くの崖の事を」
「ああ、それね。……ってずいぶんと昔の話じゃないのよ」
続けて出てきた話に、納得してからツッコミを入れるミャーコである。
この話をリッジにしたのは、おそらくはスフレが謎の集団に襲われた時だけのはずである。よくもまあ、こんな時までそれを覚えていたものだ。
リッジがこういう結論に至ったのも、自分には頭脳しか取り柄がなかったからだ。
ミャーコみたいに神託の力を持ち、活発なタイプではない。
スフレみたいに破滅の力を持ち、人を思いやれるわけではない。
ボルテみたいに力があって戦えるわけじゃない。
しかし、リッジには探求心と根気があった。それだからこそ、こうやって我慢強く研究が行えているというわけなのである。
「あの崖は深すぎて底が見えない。だから、光が乏しくても育つ植物で中に降りられるようにできないかなって考えたんだ。とはいえ、現状はまったくの真っ暗では育てるのは厳しいけれどね。あの深淵に少しでも近付ければ、きっと何かが分かると思ったんだ」
淡々と、リッジは自分の思いを話していた。そのリッジの真剣な表情に、ミャーコは何も言えなかった。リッジもリッジなりに頑張っているんだと、密かに感動しているのである。
だが、植物の品種改良は時間がかかるし、植物だって成長にはかなり時間を要してしまう。ミャーコたちが生きている間に成果が出るかどうかと聞かれたら、難しいところだろう。
とはいえども、光の少ない状況でも植物が成長できるようになれば、きっと今後役に立つ事はあるはずである。そういう意味でも、リッジの研究には今後も期待が持てるというものだった。
「リッジも頑張ってるのね。根気の要りそうな研究だけど、成果が出るのを楽しみにしているわ」
「うん、絶対に実現させてみせるよ」
話を終えたミャーコは、ボルテと一緒にリッジの研究室を後にする。
植物園から出たミャーコは、実に困惑した表情でボルテに話す。
「いや、研究はすごいんだけど、あの深淵の前では役に立ちそうにはないわ。でも、世の中を探せば日照りがほとんど期待できない場所もあるだろうし、無駄にはならないでしょうね」
「なんていうか、俺にはさっぱり分からなかったな」
ボルテの言葉に思わず吹き出してしまうミャーコ。
「おい、なんで笑うんだよ」
「いやあ、みんな変わってないなって思ってね」
笑い過ぎて涙まで出てくるミャーコである。
「さて、あとは馬たちの様子も見ていこうかしら。私とアオくんが抜けた事で、どうなってるのか心配なのよね」
「分かった。一応俺もついて行くぜ」
「いいけど、ケンカはしないでよ」
「しねえよ!」
ボルテが必死に否定してくるものだから、ミャーコはおかしいので笑ってしまう。
「お前なぁ……」
イラッと来たのかボルテはミャーコを睨んでいる。
「もう、こういう感じが懐かしすぎて泣けてきちゃうわね」
すると、笑い過ぎたミャーコはつい涙を浮かべてしまっていた。その顔を見て、ボルテはすっと怒りが引いて呆れてしまっていた。
「まぁとりあえず、厩舎に向かいましょう」
「ああ、そうだな」
学園の厩舎にミャーコが姿を見せると、職員はおろか馬たちまで大歓迎だった。よっぽどミャーコが与えた影響は大きいようだった。
職員たちからはもみくちゃにされながら撫でられ、馬たちからは顔を擦りつけられたり甘噛みされたり、ミャーコは終始驚いた表情を浮かべていた。その姿にボルテはお腹を抱えて大笑いである。そのボルテをぼこぼこと殴りつけるミャーコに、今度は職員や馬たちが大笑いだった。
いろいろとあったものの、今回の学園への訪問は大変有意義なものだったと、ミャーコは大変満足げに城へと戻っていったのだった。
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