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後日談81
「あら、ミャーコってば何かいい事あったのかしら」
「ほえっ?」
夕食の席で声を掛けられるミャーコ。驚くミャーコの顔を見て満面の笑みを浮かべるチアベルである。
「突然何をいうんですか、チアベル様」
王族たちも揃う中での食事なので、『様』と敬称をつけて反応するミャーコである。
「だって、気付いてないでしょうけれど、さっきからニヤニヤしてるんですもの。気になって仕方ないというものだわ」
「ななな……」
きょろきょろと辺りを見回すミャーコ。
すると、国王や王妃はもちろん、同席しているアレックスと下の王女であるリリアもミャーコの顔を見て微笑ましく笑っていた。
「で、何があったのかしら、ミャーコ」
戸惑うミャーコにチアベルがずずいと迫ってくる。
「近い。近いってばチアベル……様!」
あまりに顔を近付けられて、思わず手を出してしまうミャーコである。
本来ならば王太子妃に手を出しているので、それなりに処罰されるところである。だが、今回はチアベルの方から近付いているし、同じ神託の巫女であるために王族たちも家臣たちも黙って見過ごしていた。
「まあ説明しますと、まずは学園の馬たちに会ってきました。卒業まではほぼ毎日のように世話をしていましたからね、懐かしかったですよ。みんなも私の事を覚えていましたし」
改めてすました態度で説明を始めるミャーコ。
しばらくは馬の事を話していたが、急に真剣な表情に変わる。その急な変化に、さっきまでにこやかだったチアベルたちも表情が一変する。
「それはまた……、気の遠くなる話ね」
「本気なのは分かるのだが、はたしていつまでかかるかな」
アレックスとチアベルがお互いの方に視線を向けながら、少々疑わしい顔をしながら呟いていた。
「日照りが少なくても育つのは歓迎しますけど、またずいぶんと突飛な事を思いつきましたね」
「私もそう思うんですけどね……」
チアベルが話し掛けてくると、ミャーコはそれに頷いていた。
「理由は何度となくお話している、村の近くにある崖のせいですね。あそこは底が見えないくらいに深いですから、そこに降りれるようにとそんな事を始めたみたいですよ」
ミャーコが理由を詳しく話すと、王族たちはみんな言葉を失っていた。なんとも途方もない目的だからだ。
「ま、まあ、ミャーコの知り合いですから、好きにさせておきましょうか」
苦笑いをしながら話すチアベル。他のみんなも同じような感じだった。
「とりあえずミャーコ、来年の話は了承しましたからね」
「受けて頂き、ありがとうございます」
「ミャーコしか入れないのか、私たちも入れるのか。うふふ、大変興味ありますね」
チアベルが少々不気味な笑みを浮かべていた。そのくらいには隠された書庫はチアベルの興味を引いていたのである。
少々頭の痛くなる事もあったものの、これでミャーコの今回の王都訪問は終わりとなる。
帰りは再びペティアの魔法で一気にドッグワイズ公爵邸まで飛んだ。
「今回は本当にありがとうございました、ペティアさん」
ミャーコ頭を下げてお礼を言う。
「まぁ、このくらいなんて事はない。その書庫とやらはわしも気になるからのう。神託同士の子どもとはいえ、わしは恐らくその部屋には入れんだろうな。そう思うと実に悔しくて仕方ないわい」
「いやいや、行ってみないと分かりませんよ?」
珍しく既に諦めているペティアにツッコミを入れるミャーコ。
「それに、ペティアさんらしくないですよ」
「言ってくれるな、ミャーコよ。さすがはお父さんが目を掛けているだけの事はある」
ミャーコの言い分に、笑みを浮かべるペティアである。
「私なんて大した事ないですよ。いいなあ、魔法が使えるって」
「何を言う。制約があるとはいえど、お前さんの治癒能力も大したもんじゃぞ。わしには到底できん芸当じゃ」
お互いを褒め合うと、大声で笑う二人だった。
「それでは、わしはこれで戻る。年明けを楽しみにしておるぞ」
そうとだけ言い残して、ペティアは転移魔法で王都へと戻ったのだった。
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