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後日談83
「スフレ」
「ミャーコちゃん」
ミャーコが食堂にやって来ると、スフレはもう既に座って待っていた。
「ずいぶんと早いわね」
「やる事が早く終わっちゃったから、えへへ」
笑っているスフレだが、公爵夫人としての仕事なんて種類が少ない。とはいえ、他の貴族夫人たちとの茶会を、よくスフレがこなしていられるものだった。
「スフレ、困ったらいつでも呼んでよ」
「ありがとう、ミャーコちゃん」
気遣うミャーコの声に、スフレは精一杯の笑みを浮かべて返していた。
しかし、ミャーコの前で見せるスフレの姿は昔のままである。これだけを見れば、とても公爵夫人とは思えない仕草ばかりだった。
とはいえ、ミャーコの前だからこそありのままの自分が出せるのだ。ミャーコはスフレにとって癒しなのである。
「それよりもスフレ、来年の予定は分かってる?」
「ええ、城からチアベル様たちが来られたら、獣人の村へ向かうのよね」
「そうよ」
ミャーコが改めてスフレに問い掛けると、スフレからは迷うことなく答えが返ってきた。主たる目的とは違うけれど、スフレにとっては久しぶりの里帰りである。一年ちょっとぶりなので間隔としては短いかもしれないけれど、スフレはとても楽しみにしているようだ。
とはいえ、まだひと月先以上の話なので、ちょっと気が逸っている気がする。
「スフレ。とりあえず今はこっちの事に集中しましょう。どのみちチアベル様たちがやって来ない事には、私たちは出発すらできないんですからね」
「うう、分かったよ、ミャーコちゃん」
ミャーコに説得されて、スフレはようやく落ち着きを取り戻したようだった。
そうこうしているうちに、あっという間に新たな年を迎えていた。
ドッグワイズ公爵邸の周りは、相変わらずの大雪に見舞われている。そのために、朝早くから使用人たちが出て雪かきに追われていた。
「積もった雪よ、壊れれちゃえ」
スフレも破滅の力を使って、屋根に積もった雪を地面へと下ろしている。まったく、破滅の力というのも便利なものだ。
「すごいわね。これが世界の文明を破壊するためだけの力だったなんて思えないわね」
「私もそう思う。でも、使い方次第ですごく役に立つんだって思うと、私、破滅の巫女でよかったかなって思えてくる」
ミャーコが感動していると、スフレも嬉しそうに笑っている。
本当は破滅の巫女なんて存在は許せないはずなのに、スフレがこんな調子なので、みんなの認識がちょっと歪んできていた。結局、どんな力にしても、その使い方次第というわけなのだ。
スフレが破滅の力で屋敷の屋根に乗った雪を全部地面に降ろすと、それを邪魔にならない場所に山のように積み上げる。こうやって、大変な雪かきの作業は思いの外すんなりと終わったのだった。
「お疲れ様、スフレ」
「ありがとう、ミャーコちゃん」
親友同士で労う二人。
「もう少ししたらアインズ様も戻って来られるわね」
「そうだね。子どもたちもそろそろ一歳になるから、誕生日は家族そろってお祝いしたいね」
スフレが恥ずかしそうに笑いながら話している。笑うスフレの頭を、ミャーコは無言で撫でまわしている。昔からしている事なせいで、ミャーコは完璧に無意識だった。身分の事を考えると本当はやめた方がよい行動なのだが、周りにいる使用人の誰も、それを咎めようとしなかった。二人の仲は屋敷の中では周知なのである。
とにもかくにも、獣人の村へと出向く日が刻一刻と迫りつつある。
今回の訪問の第一の目的は、村の隠し書庫を読み漁る事だ。それで余裕があれば近くの崖の謎へと迫る事にしている。
はたして、神託と破滅の存在の真実に迫る事ができるのだろうか。
そんな目的があるにも関わず、ミャーコとスフレはわくわくしながら里帰りの日を待ちわびるのだった。
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