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後日談86
数日後、いよいよ公爵邸に王都からの馬車が到着した。
馬車に乗っていた面々を見て、驚かされるアインズやミャーコたちである。
「来ましたよ、ミャーコ」
神託の巫女たるチアベルとグラスにその娘ペティアが居るのはよく分かる。しかし、おまけでついてきたのが予想外だった。
「よう、ミャーコ」
「久しぶりだね」
なんと、ボルテにリッジまで居たのだ。スフレも同行するので、久しぶりに幼馴染みが全員揃ったのである。
「うわあ、みんな揃うなんて久しぶりだね」
思わず感激してしまうスフレである。
「俺は護衛だからな。それより分からんのはリッジだよ。なんの役に立つってんだ?」
幼馴染みに対して酷い言い草である。
「まぁいいじゃないのよ。来たいっていうんだったら、拒まないものでしょうに。ましてや行先は故郷なのよ?」
ボルテに対してお小言を言い放つミャーコである。その剣幕が凄いものだから、体の大きいボルテがたじたじになっている。
その様子を見たスフレがくすくすと笑っている。結局いくつになっても昔のままなのである。
これで獣人の村に向かう全員が揃った。ミャーコの侍女であるタマとスフレの侍女であるテイルも同行して、いざ出発となった。
道中はすっかり安全となっているために、無事に予定通りに獣人の村に到着する。
村に着けば馬車を預け、まずは村長へと挨拶である。
「お久しぶりです、村長」
「おお、ミャーコたちか。相変わらず元気そうじゃのう」
「それを言ったら村長の方でしょう。一体御年おいくつなんですか……」
「ふぁっふぁっふぁっふぁっ。まだまだ若いもんには負けんよ」
村長はまだまだ元気そうである。
「えっと、そちらはチアベル様でございますな。お久しゅうございます」
「ええ、村長様。お久しぶりでございます」
「それと、そちらはグラス様とペティア様でございますね。本当に嬉しい限りでございますな。国の重要人物がこれほどまでに集まられるとは……。長生きをしてきてよかったと思います」
挨拶をしながら、村長はしみじみと言っている。年を取るとどうしても涙もろくなるものなのだ。
「とりあえず村長、今回もあの建物を宿として使うのからね」
「おお、あそこか。掃除ならちゃんとしてあるから、きれいなはずじゃ。安心して使っておくれ」
ミャーコの言葉に、すらっと反応する村長である。
村長から宿として使っている建物の鍵を受け取ると、ミャーコたちは荷物を持って建物へと向かっていった。
「やっぱあの時の建物なんだな」
宿に着いた時、ボルテがそう言葉を漏らした。
「そうよ。嵐の夜にスフレがさらわれたあの場所よ。とはいえ、ここしか宿として使える建物がないから仕方ないじゃないの。他の建物は入居者が居るんだからね」
ミャーコが渋い顔をしながら話している。
それもそうだ。あの一件はミャーコにとってもきつい思い出だったのだ。
自分が神託の力に目覚めたからよかったものの、それがなければ多くの犠牲を出していたはずなのだから。
本当なら建物を変えたいところなのだけど、どういうわけか村長はそれ以外の建物をあっという間に移住者たちに提供してしまったのだ。そのせいで、ここしか結局使える場所が無くなってしまったのである。
「スフレがアインズ様と婚約してからというもの、村に移住者が増えちゃったからね。あれだけ獣人を嫌ってたはずなのに、まったく現金な連中だわ」
ミャーコが歯ぎしりをしながら拳を握りしめていた。
「まったく、ミャーコちゃんたらなんて顔してるのよ」
不機嫌なミャーコを見て、スフレが困ったような顔をする。すると、ミャーコはすぐに顔を揉み解して普段の表情に戻していた。
「まったく、みやこってば」
チアベルがくすくすと笑う。
「ふぅ、まぁさっさと荷物を置きましょうか。例の書庫には明日案内するから、今日はゆっくり休みましょうか」
「ああ、そうしようか」
ボルテの声を合図に、馬車から荷物を降ろして宿へと運び込む。
いよいよ始まった獣人の村での滞在。
ミャーコたちはこの滞在で、一体何を知るというのだろうか。
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