後日談87

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後日談87

 村に到着した初日は、とりあえずおとなしく過ごすミャーコたち。村での用事の本番は明日からだ。  ミャーコ以外の面々が、書庫の隠し部屋に行けるのかどうかというのが第一段階の検証なのである。みんなで入る事ができたのなら、書物を読む時間は削減できる。そうなれば調べ物が早く終わる可能性が高まるのだ。  だがしかし、その到着日の夜、食事の真っ只中にペティアから思わぬ言葉が飛んできた。 「それにしても、そんな場所があるというのは驚きじゃのう。城の中ならまだしも、こんな辺鄙な場所の小さな書庫なのじゃろう?」  確かに指摘の通りなのだ。なんでこんな山奥の獣人の村の書庫にあるのかというのは、甚だ疑問でしかないのだ。 「それは私も考えてみたわ。でも、以前に聞いたスフレの話を思い出してね、それなら十分あり得るかもって思ったのよ」 「私の話?」  ミャーコの話す内容を聞いて、スフレがきょとんと反応していた。 「そう、破滅の巫女の暴走から解放された後に話していた内容よ」 「あっ、確かにそんな話をしたね」  スフレも思い出したようである。 「はて、どんな話じゃったかな」  ペティアが頭を悩ませている。 「私たち獣人の起源の話ですよ」 「おお、なるほどな?」  ポンと手を叩いて声を出すペティア。その行動に、グラスやチアベルが反応に困っているようだった。  ここでミャーコの出した、獣人の起源の話を改めてしよう。  どのくらい前の事だろうか。時の破滅の巫女が自分の手駒とすべく、王国内に居た犬や猫のすべてを人化させてしまったのだ。  これが獣人の起源なのである。  それに伴い、現在の王国内にはグラスと他国から輸入された以外に、犬や猫が存在しないという状況にあるのである。 「なるほどな。破滅の巫女が生み出した獣人たちの集まる場所だからこそ、破滅の巫女に関する情報があるかもというわけだな」  グラスが納得していた。 「はい、そういうわけですね。先日来た時に発見しましたが、時間が取れなくて一部しか読めなかったんですよね」 「それでわしらも呼んで、一気に片を付けようというわけか。まぁ構わんぞ。わしとて破滅の力を研究しておる身じゃからな」  ミャーコの言い分に、腕を組みながら椅子にもたれ掛かって前向きな姿勢を示すペティアである。 「私も興味あるかな。どうしてそういう気持ちに至ったのか、気になっちゃうから」  チアベルも前向きだった。興味本位ではあるけれど。  それを言ったら、ミャーコだって興味本位だ。ただミャーコが違うのは、その先に視線が向いている事。  ミャーコの最終的な目的は別のところにあるのである。 「ではでは、残りの作業は私たちに任せて、みなさまはお休み下さいませ」 「そうですよ。ここからは私たち使用人の仕事なんですから」  食事が終わると、タマとテイルの二人がものすごく張り切っていた。ここまでほとんど出番がなかったので、ここぞとばかりに主張してきたのである。そのあまりに必死な様子に、ミャーコたちはつい笑ってしまう。 「何がおかしいんですか、奥様、ミャーコ様」  あまりに笑われたものだから、必死の抗議をするタマである。腰に手を当てて前のめりになるその姿勢は、本気で怒っているようだ。  ところが、その姿が可愛すぎたために、ミャーコはさらに笑ってしまっていた。 「もう、ミャーコ様ったら!」  両手の拳を握って叫ぶタマである。  必死に叫ぶものだから、ミャーコ以外も驚きのあまり笑いまくっていた。でも、そのおかげか、漂っていた緊張がいい感じに吹き飛んだようだった。  翌朝、緊張が吹き飛んだおかげか、ミャーコたちは気持ちよく朝を迎える。  まだまだ冬が終わり切っていない獣人の村には、雪がかなり残っている。  吐く息が白く変わる、凛とした空気の中、朝食を終えたミャーコたちは一路村の書庫へと向かう。  はたして、何人ほどが隠し書庫へと足を踏み入れる事ができるのだろうか。その緊張の一瞬が、刻一刻と近付いていた。
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