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後日談88
「ここが村の書庫ですぞ」
村長の案内でやって来た書庫。ミャーコやスフレには見慣れた建物である。
しかし、去年の暮れ頃にミャーコがやって来た時より前は、まったくもって普通の書庫だったのである。
その時はスフレも一緒だったというのに、何も起きなかったのだ。
とはいえ、今回も何も起こらないとは限らない。実際にミャーコが入った時に隠し書庫が姿を見せたのだから。
まずは一般人も含めた状態で書庫へと入る。一般人というのは村長とボルテとリッジの三人の事だ。神託でも破滅でもないので一般人なのである。
この状態では隠し書庫の入口がある壁までやって来ても何も起きなかった。当然といえば当然である。ちなみに、リッジとボルテの二人にそれぞれ単独で立ち会ってもらっても結果が変わらなかった。
というわけで、あえなく一般人の三人にはご退場頂く事となった。リッジのショックは大きかったものの、こればかりは仕方がない。
書庫の中には、神託と破滅の関係者だけとなる。
ミャーコ、スフレ、チアベル、グラス、ペティアの五人だ。正確に言うと四人と一匹だが気にしてはいけない。
「さあ、改めて中に入りますよ。準備はいいですか?」
村長たちには村に帰ってもらい、ミャーコは改めて声を掛けている。しかし、ここに覚悟のできていない者など居ようものか。全員が大きくしっかりと頷いている。
全員の覚悟を確認して、再度書庫の中へと入る。そして、隠し書庫のある壁の前までやって来た。
ミャーコがごくりと息を飲んで壁の前に立つと、壁が光を放って一部が消え去った。
「すごい……。前はこんな事なかったのに」
以前に来た事のあるスフレが驚いている。
スフレは自分から本を読む事はあまりないものの、ミャーコの付き合いで書庫に出向く事がちょくちょくあるのだ。獣人の村の書庫に顔を出したのも、そういう理由があったからである。
「よし、狙い通りだわ。神託と破滅であれば、ここに入れたのね」
ガッツポーズを決めるミャーコである。その姿を見てスフレは笑い、チアベルたちは乾いた笑いを浮かべていた。
「さてさて、面白い本はあるかのう」
「スフレちゃんの証言で、獣人は破滅の存在とかかわりがあるのが分かっていますからね。もしかしたら興味深い内容が出てくるかもしれませんね」
ペティアは研究のためだと思って、書庫の中を早速漁り始めていた。そもそも百年くらいの期間を研究に費やしてきたのだ。なんだかんだで楽しみにしていたのである。
「ふふふ、こういうのを胸躍るというのかのう、お父さん」
「合ってるよ、ペティア」
にこにことした笑顔のペティアに対して、ものすごく冷静に対応しているグラスである。これが転生を重ねてきた男の余裕である。
「ここにあるのは村の管理からも外れますから、好きに読んで下さいね。ただ、ここの本は外に持ち出す事はできませんよ。私も試そうとしてダメだったんですからね」
「なんじゃ、それはずいぶんとケチじゃのう」
「まあまあ、ペティア様。一般の方には隠そうとしていた書物なのですから、それくらいは仕方ないかと思いますよ」
ミャーコの説明にぶーたれるペティアである。そのペティアをどうにか宥めようとするものの、不機嫌な様子はしばらく収まりそうになかった。
しかし、最終的にはペティアも納得したようで、
「まぁ仕方ないのう。メモにでもすれば大丈夫じゃろうから、そうさせてもらうか」
書き留めて情報を外に持ち出す事にしたようだった。
こうして、神託と破滅が勢ぞろいしての読書会が始まったのだった。
今の今まで隠されていた書庫ゆえに、ミャーコくらいしか読んだ事のない書物の数々だ。きっと新たな発見がある事だろう。
初日となったこの日は、まるで時間を忘れたかのように書物を読み漁る五人なのであった。それはお昼ご飯を忘れてしまうくらいに……。
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