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後日談90
隠された書庫の本を読み漁るミャーコたち。
二日目はちゃんとお昼になると空腹を感じる。
「もうお昼でしょうから、一度中断にしませんか?」
チアベルが顔を上げて呼び掛けている。
「うむ、そうだね。さすがに二日連続でお昼抜きは厳しかろう。ペティア、お前もちゃんと食事をなさい」
「お父さんに言われちゃ仕方ないな。分かった、一度手を止めるとするかのう」
ペティアは不本意そうな顔をしながらグラスに従っている。
「ほら、スフレも行くわよ」
ミャーコがスフレに呼び掛ける。すると、そこにはいつもと違うスフレの姿があった。
垂れ耳がゆっくりと上下しながら、尻尾を左右に小刻みに振っている。どうも本を読むのに集中しきっているらしい。
(そういえば、スフレが読んでるあの本、さっき取るように頼まれていた本よね。スフレがあれだけ必死にお願いするものだから、もしかして破滅の存在と何か関係があるのでは?)
ミャーコにふとそんな考えが過る。
それというのも、さっきスフレに頼まれて手に触れた時に、少し手が痺れたからだ。破滅の力と神託の力が反発し合ったと考えると、つじつまが合わなくもないのだ。
静電気とも考えられなくもないが、特定の本だけで起こる事はまず考えられない。なにせ他の本と材質が変わらなかったのだから。
考え事を終えて顔を上げたミャーコは、再びスフレを見る。するとまだ本を読みふけっていた。スフレがこんなに集中しているのは、本当に珍しい話だった。
「スフレ、ご飯抜きになるわよ。そろそろ手を止めましょう」
「ひゃうっ!」
スフレはびっくりして素っ頓狂な声を出していた。垂れた耳がぴょんと跳ね上がるくらいだから、心底驚いた事がよく分かる。
「ごめんなさい。つい読むのに集中しちゃったわ」
謝るスフレ。
「まぁ仕方ないわね。でも、スフレがそんな真剣な表情で読むなんて、結構珍しいわね」
ミャーコはそれを咎めずに、正直な気持ちを話す。
「うん、私もそう思う。この本、持っていきたいけれど無理だよね」
「ここの本がこの書庫から持ち出せないから無理ね」
「よね……」
ひげをピンと立てながら言い切るミャーコ。それに対してスフレは尻尾をだらりと垂らして残念がっている。
「今日は食事を持ってこなかったのが失敗だわね。さすがに泊まり込みはできないけれど、明日は食事を持ちこみましょうか」
「うん、そうしよう」
ミャーコの意見にこくりと頷くスフレだった。
これだけやる気になっているスフレというのも珍しいものだった。その様子には、よく知るミャーコもおかしくて笑ってしまうくらいだった。
「さて、昼食を食べてるために小休止よ。さっ、行きましょうか」
「ええ、そうね」
「うむ、お腹ペコペコじゃ」
食事の流れになった事で、ミャーコたちは書庫から離れることにする。
スフレも今読んでいた本にしおりを挟んで、その場から離れていった。
村へと向かう私たち。
その最中、信じられない事が起きる。
「むっ、魔力反応があるぞ」
「えっ?!」
ペティアがいきなり大声を出したのである。
それに対して私たちが驚く。神託と破滅の関係者しか不思議な力を持ちえない世界で魔力反応といわれたら、それは当然の反応だった。
その次の瞬間だった。
ポンッという音を立てて、スフレの手の中に一冊の本が突如として姿を現したのだった。
「これ、さっき読んでた本です」
ぼけっとした感じで呟くスフレ。
「そんなバカな。その本はあの書庫の中の本じゃろうが。あの外に出てこれるわけがないし、第一どうやってここまで飛んできたというのだ」
「今のは娘の使う転移魔法のようだな。その本自体が自分の意思で発動したみたいだね」
ペティアが騒ぐ一方で、グラスは冷静に分析していた。
「まさか、この本、魔導書なのかしらね」
「かも知れないな。まさかそんなものがこの世界に存在しているとはな……」
全員が驚くばかりである。
「それよりも、本当にそれはさっきの本なのですか?」
チアベルがスフレに確認している。
「間違いないです。ほら、ここに挟まっているしおり、さっき私が挟んだしおりですから」
「本当だわ……」
スフレが指差したしおりは、アインズが学生時代にスフレに贈ったしおりで、いまだに大切に使っているスフレの思い出の品なのである。見間違えるわけがないのだった。
「むむむ……。まったくわけが分からんが、それは食事をしながらでも考えることとしようか」
「賛成ですね」
いろいろ思うところはあるのだが、ミャーコたちは腹ペコで仕方なかったので、そのまま村の中へと戻っていったのだった。
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