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後日談91
スフレの手の中に飛び込んできた一冊の本。その本は困ったことに、置いて去ってしまってもスフレの手の中に飛んできてしまった。
「どうやら、スフレに読まれたくて仕方ないみたいね」
「そうなのかしら。でも、どうして私に?」
ミャーコが思ったことを口にすると、スフレは不思議そうに疑問を口にする。
「どうしてだろうね」
ミャーコも首を傾げるが、チアベルが冷静に口を挟んできた。
「スフレちゃんだけに当てはまるひとつの特徴がありますよ」
「それは?!」
ミャーコとスフレが揃ってチアベルに顔を近付ける。さすがに急に顔を近付けられれば、チアベルだって驚いてしまう。
咳払いをして落ち着くと、チアベルはその推測を口にする。
「スフレちゃんだけ破滅の巫女ということよ。隠された書庫は神託と破滅にしか入れない場所でしょ? そして、村の近くには不穏な破滅の力が漂う崖、獣人はかつての破滅の巫女が生み出した種族。となれば、その答えは見えてくるはずでしょ」
「確かにそうだな」
「そうじゃのう」
グラスとペティアも、チアベルの意見に賛同している。
「つまり、スフレが破滅の巫女だから、この本は読んでもらいたくてついて来てるってわけ?」
「そういうことでしょうね。この本だけ他の本には使われていない色による装飾がありますしね」
「はい?」
チアベルの言葉に驚くミャーコ。
「相変わらず注意散漫ね、みやこ」
「いすずが注意深すぎるのよ」
驚きのあまりに前世の名前で呼んでしまうミャーコである。
だがしかし、チアベルの指摘に気が付いていた者は誰もいなかった。なので、これはチアベルの思い過ごしということでひとまずは片付けられてしまった。
「それにしても、その本って気になるわね」
スフレが抱える本をじっと見つめるミャーコ。
「ミャーコちゃん、読んでみる?」
思わずミャーコに問い掛けてしまうスフレ。
「いや、スフレだけが気が付いたんだから、まずはスフレが読むべきでしょうね。気になった事とかあったら私たちに聞いてくれればいいと思うよ」
「そっかぁ……」
ちょっと残念そうにするスフレである。
昼食の後、書庫漁りを再開したのだが、スフレは結局その飛び込んできた本を読むだけで終わってしまった。
「スフレ、それそんなにページ数あるの?」
「えっ」
戻る時にミャーコがスフレに尋ねる。すると、周りもみんな気になっているようだった。
「確かにそうじゃな。その程度の厚さの本なら、数時間もあれば目を通せてしまうぞ。昼からの時間を考えれば、読み終えていてもおかしくはない」
ペティアが絡んでくる。
しかし、肝心のスフレはきょとんとした顔をしている。何をそんなに騒いでいるのか分からないようだ。
「あと、えと……。そんなにおかしい……かな?」
「普通はそんなにかからないもの。スフレがじっくり読んでいたのなら、別に問題ないわよ。うん、ちょっと気になっただけ」
戸惑うスフレに、ミャーコはちょっと歯切れ悪く言い訳をしていた。
「そっかぁ。うん、この本結構興味深いから、ついついじっくり読んじゃったの」
しかし、スフレはそんな事は気にしていなかった。そう答えながらも、笑顔を見せている。
こんなスフレではあるが、破滅の巫女として覚醒して暴れたし、今だって公爵夫人という立場にあるのである。垂れ耳がチャームポイントな犬の獣人なのだ。
「さて、ゆっくり話をするのは宿に戻ってからにしようか。暗くなると獣人とはいえど危険だからね」
「まぁ魔物が出てきたところで、わしの魔法でバーンとやっつけてやるわい」
「ふふっ、頼もしい限りだな、ペティア」
グラスは帰りを急かすと、ペティアが踏ん反りがえって自慢げに話している。娘の可愛らしい姿に、ついつい笑ってしまうグラスである。
「さて、スフレくんがどんな内容を見たのか、食事の時にでもゆっくり聞かせてもらおうじゃないか」
「わ、分かりました」
そんな約束をして宿まで戻ったミャーコたちは、タマやテイルたちに出迎えられてゆっくりと今日の疲れを癒したのだった。
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