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後日談92
翌朝、ミャーコが目を覚ますと珍しい光景が目の前にあった。
「スフレ?」
「あっ、おはよう、ミャーコちゃん」
なんと、ミャーコより早く起きた事が数える程度しかなかったスフレが、もう目を覚ましていたのだった。よく見るとその手には、どこからともなく飛び込んできたあの書物が握られている。
「ああ、本が読みたくて起きてたのね、スフレ」
「うん、なんだかいつもよりすっきり目が覚めてるの。不思議な感じだわ」
スフレはとてもにこやかに喋っている。
「それにしても、スフレの手元だけ明るいわね。破滅の魔法かしら」
「うん、ここだけ暗闇を壊したの。真っ暗じゃ本が読めないから」
「ははっ、スフレらしい平和的な使い方ね」
にこやかに説明してくれるスフレの姿に、ミャーコはつい笑顔を浮かべてしまった。
「この本、初めて見たはずなのに、なんだか懐かしい感じがするの。だから、少しでも早く読まなきゃって思ったのよ」
「スフレの手に飛び込んできたところを見ると、おそらくは破滅の存在に関した書物でしょうね。私たち神託じゃ、多分その本を読む事ができないと思うわ」
「そう、かな……」
ミャーコの見解に、スフレは心配そうな表情をする。
ところが、このミャーコの見解は別に根拠のないものでもなかった。
「だって、その本の表題、スフレだって見たでしょ?」
「えっ」
「えっ?」
ミャーコに言われたことに、どういうわけか首を傾げているスフレ。これはミャーコも意外だった。
「いや、だってその本の表紙に『破滅の力について』って書いてあるのよ?」
「えっ、ええっ?!」
驚いたスフレは読んでいる箇所に栞を挟むと、慌てて本の表紙を見る。すると、確かにそこには間違いなく『破滅の力について』という文字が書かれていた。
「あっ、ホントだ……」
「スフレってば、変なところで抜けてるわね……」
思わぬ反応に頭が痛くなるミャーコである。
「でも、そんなタイトルだからこそスフレに読んでほしかったのでしょうね。私たち神託の力もそうだけど、破滅の力も使い方次第ではいいようにも悪いようにもできるからね。それこそ、ペティアさんの魔法と同じようなものよ」
「あ、うん、そうだね」
くすくすと笑っているスフレである。
その姿を微笑ましく思いながら、ミャーコは窓を開ける。外はまだ少し薄暗く、これから夜が明けるところといった感じだ。
「これなら二時間くらいかしらね。タマやテイルが呼びに来るまでの間、読書してていいわよ。私は顔を洗ってくるわ」
「うん。いってらっしゃい、ミャーコちゃん」
大あくびをしながら、ミャーコは洗面台へと向かっていく。その姿を見送ったスフレは、再び読書を始めたのだった。
ちゃっかり二時間後、部屋にテイルがやって来た。
「スフレ様、ミャーコ様、お食事の準備がお整いましたので、食堂へお越し下さいませ」
「ええ、分かったわ。さっ、行きましょうか、スフレ」
「あっ、うん」
食事に呼ばれたので、スフレは本を閉じて食堂へと向かう。暗闇を壊して作った照明を破壊して消すスフレ。そこそこ破滅の力を使いこなしているようだった。
食堂に揃ったミャーコたち。そこでは早速スフレの事が話題に上っていた。
「スフレくん、どのくらいその本を読んだかね」
グラスに聞かれて、栞の挟まった本を見せるスフレ。位置的にはほぼど真ん中に挟まってはいるのだが、この本、まったくページ数があてにならないので本当に半分くらい進んだのかは分からなかった。
「かなり読みましたけど、結構面白い事が書いてありました。この村の成り立ちだとか、近くの崖の話だとかも、当時の破滅の巫女様が知る限りをこの本にまとめられたようです」
「ふむ、討伐されずに長生きした破滅の巫女も居るという記録はあるからね。実に興味深い話だよ」
「以前、破滅の力から得た情報と重複する部分もありますけれどね。ちなみにですが、この本によれば当時の破滅の巫女は敗北はしたけれど、寿命まで生きたみたいですよ」
スフレから出た思わぬこの言葉に、食堂内は騒然となるのだった。
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