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後日談93
スフレはとにかく書物から得られた情報を話していく。その口から語られる話は破滅の意思に吸い込まれていた情報とは、また少し違っていたようだ。
「どうもこの書物は、その時の破滅の巫女が書き記していたようなんです」
スフレの話を、ミャーコたちは黙って聞き入っている。
なんといっても多くの人が知らない、貴重な破滅の巫女に関する情報なのだから。破滅の力を研究しているペティアは、ことさらに聞き耳を立てている。
「ということから、ここに獣人たちが集まるのは、獣人を生み出した破滅の巫女の終の棲家だったからなんです。そのために私たちは、その身に刻み込まれた契約によってこの地に集まってきたのでしょうね。さすがに時代が経って今ではその効果が薄れてはしまったようですけれど」
書物に書かれていた内容をどんどんと喋っていくスフレ。この時のスフレは見た事がないくらいに饒舌に思えた。
「つまり、あの隠された書庫とやらは、その時の破滅の巫女が残した遺産というわけかな?」
「あっ、はい。そういうことになりますね。然るべき人だけに見えるように、隠蔽魔法を施していたようです」
ペティアの問い掛けにはっきりと答えるスフレである。
「なるほどな。破滅の巫女の力ゆえに、神託の力で相殺できるというわけか。これで猫娘に見えて、他の村人に見えぬという理由に合点がいった。わしらが入れるのも同様の事のようじゃな」
「ちょっと、私の事はまだ猫娘って呼ぶの?! これでも男爵位の貴族なんだから、いい加減に名前で呼んで下さい」
ペティアがいまだに名前で呼ばないことに怒り出すミャーコである。
「ふん、お父さんに最近構わないから、猫娘で十分じゃ」
「ちょっとグラスさん。娘さんがあんな事言ってますよ!」
ぷいっと顔を背けるペティアに、ミャーコは本気で怒っているようだ。これにはスフレとチアベルが呆れた表情を見せている。当のグラスもどう反応していいのか困っているようだった。
「もう、ミャーコちゃん。グラスさんを困らせちゃダメですよ」
「うっ。す、スフレにそう言われちゃ仕方ないわね。ペティアさん、絶対私の名前を呼ばせてあげますからね」
「望むところだ、猫娘」
まったくどうしてこうなったのか。
食事の間中、ミャーコとペティアはじろりとお互いを睨み合っていたのだった。
「もう、二人とも仲良くしてくださいね」
チアベルにも笑顔を崩さぬまま叱られるミャーコとペティアだった。
とまぁ、話がずれてしまったものの、今日も揃って書庫へと向かう面々なのであった。
そんな中、ボルテとリッジは暇を持て余していた。
「あいつらがずっと書庫に行ってるせいで、俺たちは暇だな」
「ですね。でも、ボルテはいいじゃないですか、体を動かせるんですから。僕の方は材料も何もないから、近くで植物採取でもしてないと時間の潰しようがないですよ」
「研究者気質だもんな、お前は。だから、そんなに体がひょろがりなんだよ。鍛えればずいぶん違うぞ」
ボルテは毛むくじゃらな二の腕に力こぶを作っていた。しかも両腕。まるでボディビルダーのポージングのようである。
「体力は何をやるにしても基本だ。たまにはしっかりと体を動かすのも悪くあるまい?」
「……まあそうだね。お手柔らかに頼むよ」
白い牙を見せながら笑うボルテに、尻尾をだらりと垂らしながら答えるリッジである。このボルテの笑顔は逃げられない、そう判断したからだ。
「おう、任せておけ。一応お前に合わせて手加減してやるからな。明日一日動けないくらいは覚悟しておけよ、がっはっはっはっ」
「あは、あはははは……」
大きな声で笑うボルテの姿に、安易な返事をした事を後悔するリッジなのであった。
暇を持て余す男二人のじゃれ合いは、ボルテに振り回されてばかりになりそうだった。
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