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後日談94
結局のところ、スフレが持っている本以外はほぼ一般的な知識の本ばかりだった。しかし、蔵書のあった場所を考えると、破滅の巫女自らが調べてまとめた内容だと思われる。
部屋の中の蔵書はかなりの数にのぼっており、当時の破滅の巫女はかなり長生きをしたものだと思われる。それこそ高齢の大往生といったところだろう。
スフレの解読によって、敗北者側の破滅の巫女がその後も生き残り、しかもスフレのように正気を保って生き続けていたというのは世紀の発見になるだろう。
「ふぅ、北の崖の事もかなり詳細に載ってましたよ、ミャーコちゃん」
「ホント?!」
ようやく本を読み終わったスフレから、驚くべき事を聞かされたミャーコ。どうやら、村というか隠遁生活使った拠点で北側の崖についても調べていたらしい。これは予想外の話である。
だが、これはその破滅の巫女が村の基礎を作る前からその崖が存在していたことを示す証拠となる。
「うへぇ……。あの崖ってそんなに古くから存在してるのね」
「となると、あの崖の瘴気に惹かれてここにやって来たのかもしれんな。何にしても興味深い話じゃのう」
ミャーコは酷く驚き、ペティアはとても興味を示している。
「とは言いましても、私があんまり興味を示していないので、彼女だけの話の可能性はありますね」
「確かにそうですね」
スフレがはにかみながら話すと、チアベルは真剣な表情で頷いていた。
「あっ、そうだ。その時の破滅の巫女の名前も書いてありましたよ。ほら、後書きのところに署名していたみたいです」
該当の箇所を見せようとするスフレだが、本が勝手に閉じようとしている。スフレは必死に抵抗しようとするが、本の力の方が勝ってしまった。
「もう、なんで閉じちゃうのよ……」
息を切らせながら文句を言うスフレ。それに対して本はスフレの手の中で腹を左右に振っていた。
「その本、生きてるのね」
「魔力を感じるから、おそらくは当時の破滅の巫女がなんらかの力を作用させていたのだろう。スフレと同じように使いこなしていたのかもな」
「まったく、この村は不思議な事ばかりが起こるものだな」
グラスとペティアの親子はなんともいえないような表情を見せていた。
「とりあえず、その時の破滅の巫女の名前は言っちゃいますよ。王国にも記録は何か残っているかも知れませんしね」
「まぁそうだね。その本が邪魔をするかもしれないが、別に君の主を貶めようというわけじゃない。彼女の研究はもしかしたらこれからに役立つかもしれないのだからね」
スフレの言葉にグラスがそういう反応をすると、本は納得したのか勝手にページをめくり始めた。そして、後書きのページを開くとずずいっと自己主張してきた。
「ふむふむ……、マフィリアというのか。私も知らない名前だし、破滅の巫女となったのなら抹消されている可能性はある。だが、城か学園の中になら残っているかもな」
名前を見たグラスは深く考えている。
「とはいえ、見つかったからといって何ができるわけでもないと思うよ、お父さん。なにせかなり大昔の話だからね」
「まぁそうだね。とはいえ、破滅の巫女として覚醒した状況を調べるというのは、同じような悲劇を避けるためには必要だと思うよ。スフレくんで終わりになるとは、到底思えないからね」
「まぁ確かにそうですね」
グラス、ペティア、チアベルの三人がスフレに視線を向ける。
「うう、そんな目で見ないで下さいよ。わ、私は歴史にちゃんと名前を残しますからね。なにせドッグワイズ公爵夫人なんですから」
虚勢を張りながらドヤ顔を決めるスフレである。その行動の可愛さに、ミャーコはつい吹き出してしまう。
「ちょ、ちょっとミャーコちゃん?!」
「ごめん、スフレ。急に自信満々に言うものだから、つい……」
「もう、ミャーコちゃんったら……」
こういったやり取りが出るのも、親友ならではといったところだろう。
ひとまずかなり新しい情報が手に入ったので、目的は達成できたというところだろう。ちなみにスフレが持っている本は書庫から立ち去ってもしつこくついてきたのだった。
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