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「あー――っ」
「……大丈夫っすか」
研究室に轟いた叫び声に、パソコンの影から男の顔が覗く。颯は身体を机へ突っ伏せたまま、顔だけを上げる。
大きく溜息した。
「全然。全然結果が出ない」
「大変すねえー」
「他人事だなあ」
「他人事ですから」
あっさり言って、自分の実験準備を始める後輩を、颯は恨めしく見つめる。彼はそのままそういえば、と切り出した。
「大神先生の助手してるんですよね、修士のときから」
「そうだけど。……何? 興味あるのか?」
「ある意味」
その返しに颯はぴくっと反応するが、彼は薄く笑みを浮かべていた。
「嫌にならないのかなって」
颯は口を開くが、しばらく言葉が出てこなかった。ついに後輩が心配そうな顔を覗かせる。
「すみません、言い過ぎました?」
聞かれても。颯はがしがしと頭を掻く。
「いや、もう言われ過ぎててなんも思わんよ」
「ああ、やっぱり」
彼の声には納得があからさまで、颯は内心むっとする。だが言葉にしては軽く留める。
「ま、人の好みはそれぞれだろ」
「自覚あったんですね――」
彼の声と、研究室の扉が開く音が重なって、二人してそちらを見やる。まさに今話題に上がっていた張本人がそこに立っていた。
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