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大学の講義もしている大神には、大学内に研究室とは別に個室を与えられている。主に授業前の準備や書籍などの物置にしていて、時々資料整理のために颯が駆り出されることもある。 大神は整理整頓があまり得意なタイプではない。 夕日が差し込む午後六時、颯は研究の合間を縫って資料整理をしていた。小さな部屋には大神と二人きり。開け放たれた窓から入り込んだ、夏の生ぬるい風が室内をかき混ぜる。風に乗って、大神の白衣に染み付いた煙草の残り香が漂ってくる。彼はこうみえて愛煙家なのだ。 「お前、こんなこと続けてていいのか?」 机に二人分のコーヒーを置きながら、大神が唐突に切り出した。 「……は?」 椅子に腰かけた大神は、颯へ観察するような眼差しを向けたままアイスコーヒーの入ったグラスを傾ける。眼鏡を外して、鼻の付け根をマッサージしながら続けた。 「進学したばかりだろ。研究は進んでるのか?」 「うっ……まあ、進めてはいます」 結果は出ていないが。 作業の手を止めて、大神の入れたコーヒーに口をつける。ぬるい、インスタント独特の風味が広がった。 ここに砂糖を入れれば甘くなるだけでコーヒーは風味も消えるだろうな。そう思いながら棚を探ってシュガーシロップを見つけ出す。この部屋の配置に関しては大神よりも詳しい自信がある。 勝手知ったる顔でうろつく颯を気にも留めずに、大神はただ首を振った。
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