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「でも専門分野の話になると人が変わったみたいに雄弁になるんだよ。表情まで明るくなってさ。それを見てんのが愛しくて……」
「それ、本人に言ってください」
「言ってるよっ! でもまったく相手にされねえんだよっ」
年下の青年に冷静に返され、颯はつい感情的に叫ぶ。
「まあ相手はストレートなんでしょ? 仕方ないところもあるわよ」
マスターの憐れむような声に、颯はふと首を傾げた。
「ん……どうなんだろ。そういう色恋沙汰とか先生から聞いたことないからわからないな」
「……ますます望み薄じゃないですか?」
「うるさいなあ」
呟いて、颯はグラスを呷った。ロングアイランドアイスティーの淡い紅茶の香りが鼻を抜ける。
マスターは頬杖をついてつまらなさそうに続けた。
「いい加減、既成事実でも作ればいいじゃない。チャンスはあるんでしょ」
「あるっちゃあ、あるけど……」
正直、気乗りしない。
今の距離感もなんだかんだ言って気に入っている。下手に動いて嫌われることだけは避けたい。
少なくともあと三年は入り浸るつもりだし。
「そんな悠長なこと言ってると誰かに食べられちゃうわよ」
「むー……」
颯の心を読んだかのようにマスターに煽られ、颯はグラスへ溜息を零した。
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