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颯はこの春、晴れて博士課程へと進学した大学院生だ。大神からこっ酷く添削され、もう無理かと思われた修士論文も何とか提出できた。
やっと梅雨も明けて、ようやく本格的な暑さが増してきた七月。研究に追い込まれている時期だというのに、提出したレポートはほとんどダメ出しだけで突き返された。
「おい、」
「はい?」
呼びかける声に、颯は忠犬のような素早さで振り返る。
「次の授業の資料がないぞ。出しとけって言ったろ」
「あっ、え? 次って……うわ、もうこんな時間っ?」
分析に夢中になって時間も忘れていたらしい。自席に駆け戻りながら颯は肩越しに叫んだ。
「すぐ用意します!」
「そのまま教室までもってこい、あと五分。遅れたらレポート追加」
無茶苦茶な。次の授業の教室までどれだけ急いでも十分はかかる。
一連のやり取りを見ていた研究室のゼミ生たちは、大神に扱き使われる颯を心底憐れんでいた。
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