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人間は苦手だ。人の感情は数値では測れない。何を考えているのかも、相手の好感もわかるはずもない。 ――片霧颯の真意も。 昔から、浮いた人間だった。子どものころから外で遊ぶよりも一人で本を読んでいるほうが好きだったし、一日中アリの行列を見ているのも苦じゃなかった。 根暗で陰気。気付けば周囲に友達と呼べる人は数えるほどしかなく、院を卒業後も研究室に籠っているといつの間にか准教授になっていた。 颯が付きまとい始めたのは彼が大学三年の頃だ。彼は当初、大神のゼミ生ではなかった。だがなぜか途中でこちらに転籍してきた。 それから数か月後だっただろうか。颯は突然、大神に告白してきた。 ほとんど知らない学生から、しかも颯のような男からの告白に、大神はかなり当惑したものだ。動揺しながらも断ると、彼は拍子抜けするほどあっさり受け入れた。 だがそれは諦めではなかったらしい。 以来、振られると分かっていながらことあるごとに言い寄ってくる。もう四年ほど。もはやルーティンのようなものだ。 大神は、彼に応えるつもりはない。
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