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自分で言ってから、たかが――という言葉に辟易する。他人の命は「たかが」という言葉で片づけられるほど、軽くはない。
「……別に、大したことじゃない」
レーヴォは少し嘲るように笑った。
「未来の将校様は、真面目だねえ」
「まだ祖国が勝利したわけじゃない」
実際に、私たちの軍の白兵小隊はいくつか潰れてしまっていると無線で聞いた。依然、私たちの優勢ではあるが、個人間で見れば私もいつ殺されるかわからない。「無事な小隊」の中に、私やレーヴォはまだ含まれていない。無事か、半壊か、全滅か――そのいずれかだ。
「……軽口なんて叩いている暇もない」
レーヴォが虫の一匹を口に運ぶ。すぐに文字通り苦虫を噛み潰したような顔をして、一匹を私に差し出してくる。食べてみると――なるほど、泥臭い。栄養はあるのだろうが、これならば鰐肉を齧っている方がマシである。
彼はその小さな栄養源を嚥下してから、ゆっくりと口を開いた。
「違うだろ。こんな所でも、戦線を守り切れれば『勝利は勝利』だろ?」
少なくともまだ負けたわけじゃねえだろ、と彼は続ける。次から次へと虫を頬張っていく。私の分はなさそうなので、仕方なく干し肉の残りを齧って空腹を誤魔化す。
「私たちは、褒められていいものじゃない」
「英雄サマじゃなくて、犯罪者サマだってことね」
「ああ、そうだ」
帰りてえなあ、とレーヴォは寝そべった。それから欠伸を一つ。私もつられて一つ。葉っぱの上に虫はもういなかった。
「流石に、眠いな」
「コーヒーの一杯でも飲んで死にてぇな」
ほんの少し、祖国での生活が脳裏に蘇った。しかし私はすぐにそれを打ち消して、未だ僅かに煙を上げている火種を踏みしだいた。
「消えちまうぜ」
「消してるんだ、近いうちにお前もこうしてやる」
「あァ、怖いね」
その時、レーヴォのリュックからノイズ音が走った。すぐに彼は飛び起きて、中から無線機を取り出す。スピーカーを耳に押し当てて、先ほどとは違い、真面目な表情ではい、はい、と繰り返す。それから二言三言交わして、彼は受話器を仕舞い込んだ。
「なんだった」
「現状報告。少し早いが明日には別の小隊と入れ替わりだってよ」
「ふむ」
「油断するわけじゃあねぇが、ラッキーだな」
「正直、私も否定できない」
「お前は死にたくないんだもんなァ?」
私は火種に土をかけて完全に消火し、荷物を背負った。レーヴォもすぐに支度を始め、右手に短機関銃、左手に干し肉を掴んでいた。
「戦線離脱の準備だ、海岸側に行こう」
方位磁針を取り出したが、針が安定しなかった。水平に置いても変化はない。レーヴォはそれを見て、小馬鹿にするように笑った。
「まぁ、簡単にできたら苦労しねぇよな」
「まったくだ」
私たちは揃って空を仰いだ。太陽が昇ってきた方向は――地図を広げて、海岸の方角を確かめる。
「割と遠いな。どうする?」
「いつも通り、残兵狩りと罠を設置しながら向かおうか」
「肥溜めに落ちるなよ?」
「その時はお前を叩き落としてやる」
そうして、私たちは木々を分けて歩き始めた。
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