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「イリェ、起きろよ。朝だぞ」
肩を揺すられて、ふと目が覚める。太陽が眩しい。腕時計を見ると、もうすぐ七時に差し掛かろうとしているところであった。短機関銃を傍らに置いたレーヴォが、隣で肉の塊をナイフで切っている。それをじぃっと見つめていると、仕方ないと言わんばかりに残りの肉を投げ渡してくる。
「今日のお前の分だ。食わねえなら俺が食う」
「くれるなら、もらう」
言って、レーヴォと同じように口の端に干し肉を咥えた。昨日食したものとは違う質感、味に一瞬顔をしかめてしまう。強烈な臭みに耐えかねて一度口から出すが、鼻の方に抜ける香りは依然とこびりついたままだ。
「何の肉だ、これは。アリゲーター?」
「さっき見つけたんだ、カミキリの幼虫とかはどうだ?」
そう言って、彼は手元に置いてあった葉っぱを開く。中には十数匹の幼虫が蠢いていた。
「火を消す前に焼いちまおうかと」
「食えればなんでもいいんだが」
そうして肉を奥歯で噛み、咀嚼する。思っていたよりも塩分が効いている。そして硬い。千切れない。私は仕方なく噛むのを諦め、唾液で少しずつ柔らかくしていくことにした。
目の前で燃える小さな火を見ながら、レーヴォは俺の向かいに座った。銃の安全ロックを確認して、隣に置く。それから、虫たちを葉っぱで三重に巻き、火種に放り込んだ。焼くというよりも蒸すようである。
「とりあえず、生きてたな」とレーヴォ。
「ああ、十二日目だ」
「おかしいな、俺は十三日と記録しているんだが」
「お前のミスだ。私は失敗などしない」
「だろォな、信じるぜ」
まだ帰れねえなあ、と空を仰いでぼやく。掃討戦と言えども、常に神経を張ったままの日常は精神的によろしくない、帰還輸送機の到着予定は十四日と通達されていたし、無線機にも連絡は入っていないため、予定に変更はないのだろう。――あと二日、と私もその日数を噛みしめた。
「よく死なないで来れたよな」
「そうだな」
「もしかしたら、今日こそ死んだりして」
「縁起でもない、やめろ」
「言ってて怖くなってきたぜ」
わざとらしく身体を震わせて、彼は笑った。よくもこんな状況で笑えるものだ、と何回目になるかも分からないことを考える。火種が大きく弾けた。葉っぱが段々と焦げ付いてきたため、レーヴォは枝を使って包みを広げていった。
「それはそうと、お前、残兵はどれくらい狩ったんだ?」
「数えてはいないが、四十は」
「やるな、俺は三十そこそこだ」
「たかが十、二十でどうこう言っていたのが懐かしいな」
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