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偽物の代償
「ブルームーン」店内の奥にあるボックス席。小夜はソファに座りながらテーブルの上にある2つのシルバーリングを見つめていた。向かいのソファには虎徹と龍也が座っている。
「お2人のお気持ち、十分受け取りました。その……、お2人とも目を閉じて、私の前に手を差し出してくれませんか?」
虎徹と龍也は小夜を不思議そうに見つめる。小夜は自分の片手をテーブルの上に添えて、頬を染め上目づかいで2人を見ている。なるほど、選んだ相手の手を握ってくれるということか。虎徹は龍也に視線を向ける。龍也は虎徹に対し静かに頷いた。その合図に、2人は顔をにやつかせた後、テーブルにそれぞれ片手を置いて目をつぶった。
………………ガチャリ。
「んっ? なっ⁉ なんじゃこりゃあー!」
目を開けた虎徹は叫んだ。虎徹と龍也の片手には手錠が掛かっていた。互いに片手を引っ張り合う。虎徹は小夜に視線を向けると、小夜の後ろには10人の男性警官達が並んでいた。さらに、虎徹達の後ろにも同じ数の警官達。一気に取り押さえられた。虎徹がもがいていると、小夜は冷たい声音で告げる。
「藤堂虎徹、並びに、桐生龍也、偽ブランド品の取引、及び、販売容疑で逮捕します」
「てめえ小夜! 俺達の正体を知っていたのか!」
虎徹の怒声に、小夜は冷ややかな目で答えた。
「ええ。今日、2人が同時に店に来るって連絡をもらったとき、チャンスだと思ったわ。でも、まさか私に告白するために来たなんて、ほんとバカな人達」
「くそがっ! 騙しやがったなああああ! 俺の気持ちを弄びやがってええええー!」
虎徹の咆哮に、小夜はギロリと細い眼つきで虎徹を睨んだ。虎徹はビクッと体を震わす。
「騙す? 弄ぶ? あなたは今までどれだけの人達をそうしてきたと思ってるの? 私にくれたこのネックレスだってそう」
小夜は、男性警官達に羽交い絞めにされている虎徹の目の前に、シルバーのネックレスを掲げる。
「うっ! だ、だが、このリングは本物だったんだ……! 本気で好きだったんだ……」
小夜はフンッと鼻で笑い、クイッと顎を動かす。男性警官達が、龍也と虎徹を強引に店の外へ引きずり出した。
虎徹は力の無い目で暗い夜空を見上げた。頭上には、虎徹の姿を冷笑しているかのように青色の月が妖艶に煌いていた。
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