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このまま全ての桜が散っていくのを見ていられるくらい、お互い沈黙が続いていた。
ショウの奴なんも話しかけてこない。何か話しかけるタイミングも失ったし、今話しかけてもどうせ返事しなさそうだな。
そう思いつつちらっとショウの横顔を窺うと、間抜けな顔をしながらどこか遠くを見つめていた。
一体こいつは今何を見てるんだ?
桜を見ている訳でもなさそうだし、もしかして空か?
確かに今日はいい天気だ。快晴と言ってもいいくらい青空が綺麗だよな………。いや待て、こいつが空を仰ぐという事は余程の何かがあるに違いない。だとしたら何だ?
お前が遠くを見つめる程の、この広大な景色を眺める程の悩みというのは何なんだ。きっと何かあるんだよなお前にも悩みが。なあ、頼むから教えてくれよ………。
しかし彼を凝視した所で答えは出て来ず、
やめたやめた。こいつの事だ、どうせ大した事ないだろう。
諦めて前へ向き直し、再び桜を眺めた。
ベンチに座ってから一言も会話をしてない俺達は、このまま春の北風と一緒にどこか遠くへ飛んでいってしまうのではないかと変な妄想に入り始めかけたその時、ようやくショウの重い口が開いた。
「なあ」
「うおっ、びっくりした。お前やっと喋ったか。全く、このまま日が暮れるまでずっとお地蔵さんになってるのかと思ったよ」
「は?」
「ごめん何でもない。それで何?」
「ああ、別に大した話をするわけじゃないんだけどよ………」
「うん」
ショウが改まって話を始める際、必ず重大な何かがあると決まっている。
待てよ、この流れはまさか………。いやまさかなのか!?
安心したのも束の間、直ぐに緊張感が走った。
「実はさ俺………」
「うん」
「ってマジかっ!?」
「うおっ、なんだよ」
突然声を上げたショウに驚き、思わず身構えた。
「なんだ、どうした」
ショウの目が見開いていた。驚愕する程の何かが彼の目には映っているのだろう。よく見ると彼の頬が若干赤く染まっていて、それと興奮している表情は引いてしまうくらい気持ち悪かった。
こいつと同じ方向へ顔を向けた途端、俺の何かが衝撃を走った。目に映り込んだのはショートヘアーの女の子で、春らしさを感じるカジュアルな服装に、小顔でパッチリした瞳は吸い込まれそうな程綺麗だった。
また透き通った白い肌とハーフ顔に見える容姿は、俺の心を鷲掴みにした。率直に言えば、超可愛いという事だ。
「めっちゃ可愛いなあの子」
「ああ………」
「高校生かな?
俺らと同い年にも見えそうだけど」
「ああ、そうだよ………」
「そうなの?
ってかあの子の事知ってるのか?」
「ああ………」
はっきりしない返事に苛立ちを隠し切れず、指摘しようとショウの顔を見た途端、全てを理解した。
なるほどな。こいつまさか………。
「あの子の事好きなの?」
「ああ………」
やっぱり。
「っておい。お前急に何言ってんだよ!
別に好きじゃねえし!」
狼狽し、目が泳いでいる所も見たら誰でもわかる。これは恋をしているのだな、と。
ホントわかりやすい奴だなあ。
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