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 「君が桜を見ている姿があまりにも美しかったのでつい見惚れてしまいました。ホントにごめんなさい」  馬鹿正直に応えた。我ながら恥ずかしい謝罪でもあったが、誠心誠意の思いは伝えたはずだ。  これで許してもらえなければ、俺達は警察に御用になるな………。  すると彼女の口から、  「………そ、そう。素直に謝ってくれてありがとう」  優しくも、何処か恥ずかしそうな声が聞こえた。  恐る恐る顔を上げると、彼女の頬は赤く染まっていた。また神々しい太陽の光が透き通った彼女の肌に反射し、キラキラと白く輝いていて、それはまるで天から舞い降りた女神だと錯覚する程だった。  眩し過ぎて直視出来ず、咄嗟に顔を背けた。今の仕草で顔を見たくないという誤解を彼女に植え付けてないだろうかと心配に思っていたのは俺だけで、彼女は平然と次の話を振った。  「君達って茅高(ちこう)の人だよね?」  「………えっ、なんでそれを?」  眩し過ぎる彼女に目を細めながら再び顔を戻すと、  「私も同じ茅高に通ってて、君達二人を学校で見かけた事があるから」  との事だ。因みに『茅高』とは『茅ヶ崎第一高校』の略である。  なんと!  まさか同じ高校に通う同級生が、しかもこんな可愛い女の子が俺らを見た事があるっていうじゃないか。しかしながら残念、俺はあなたを一切学校で見かけた事がないんだよ。  嬉しい反面、申し訳ない気持ちになった。  こんな綺麗で可愛い子を学校で一年間も見かけていなかったとは、なんて俺は勿体ない事をしていたんだ。いやでも廊下ですれ違った事はあるんじゃないか?  過去を振り返ってみると、気付いた点が一つあった。  ………ああ、そうか。俺が一人で廊下を歩いている際は、下を向いているから一切人の顔を見ていなかったんだ。恐らくそれだな。  そりゃそうだ。もし学校で彼女を見ていたなら、とっくのとうに俺の記憶に彼女の顔が鮮明に残っているはずだからな。でも何で学校中で話題にならなかったのかがおかしい。こんな可愛い子、男女共に黙っていないだろう。何で一年も見ず知らずだったんだ?  ホント不思議な事もあるもんだ。でもよかったなショウ。お前も見かけた事があるって言うんだから、素直に喜べよ。  ショウに一瞥すると、奴はまた彼女をまじまじと見つめていた。呆れて物も言えなかった。  「どうしたの?」  「えっ、いやなんでもない」  そうだ、今は彼女と会話をしてるんだ。こんなニヤニヤして言葉も通じなさそうな奴なんか構っていられない。  「ところで君の相方、黙ったままずっとこっちを見続けてるけど大丈夫なの?」  「ああ、こいつはたまにボーッとする時があるんだ。ごめんね、気にしなくていいよ」  ったく、お前はホントに面倒をかける奴だな。  こいつを正気に戻す策は、耳元で大声を上げるしかない。  「おーいっ! いつまでボーッとしてんだ!」  大きく肩を震わせたショウは、耳を抑えながら俺を睨みつけた。  「お前ビックリさせんなよ。ったく鼓膜破れたらどうすんだよ」  「お前がずっとボーッとしてたからだろ。話に入ってこないし、上の空だったぞ」  「あ、あれだよお前、ちょっと考え事してただけだよ」  「こちらの方を見ながら?」  「見てねえよ。俺は空を見ながら考え事してたんだよ」  「へー、あっそう」  好きな子を前にすると、こいつはこんな風になるんだな。今度あいつらにも話してやろう。  「なんか面白いねお二人さん」  ついさっきまで険しい表情だった彼女はいなくなり、頬が緩んで和らいだ彼女がそこにいた。その微笑みはまるで天使のように優しく、いつまでも見ていたい笑顔だった。  しかし俺の体が沸騰したやかんのように火照ってしまい、一旦熱を冷まさせようと見たくもないショウの方へ振り向いたら真っ赤にした奴の顔が目に映り込んだので、ついでにからかってやった。  「何顔赤くしてんだよ」  「はあ?  いやお前も顔真っ赤だぞ」  「嘘だね、そんな訳ないだろう」  「ホントだよ、鏡見てみ。何恥ずかしがってんだ」  「そりゃお前だろ。今日は女の子の前だからって口数少ないな、どうした?」  「うるせえ。お前の方こそ今日に限って全然話さねえじゃんかよ」  こういう些細な事で口喧嘩する時もあるが、特に大した事にはならない。こうなった時はいつも止めに入ってくれるメンツがいるのだが、今日はそいつがいないので、代わりに彼女が止める役を買ってくれた。  「はいそこまで。周りの人達に迷惑かけちゃうからやめなさい。もう、喧嘩する程仲が良いって言うけど、お二人さんホントに仲が良いんだね」  「いやいや、別にそこまで仲良くないし。こいつがぼっちにならないようにつるんでやってるんだよ」  とショウ。  「はあ? 余計なお世話だよ。ってか俺はもともと友達がいたからいいけどさ。お前が入学当初周りに知り合いすらもいないからって、同じクラスでしかも席が隣だから都合いいって理由で俺に話しかけてきたんだろう。そっちがぼっちにならないように気を遣ったやったんだぞ」  「いやいや、俺がいつそんな事言ったよ」  「だから入学当初だよ」  「知らねえなあ」  「お前いい加減に」  「いい加減にして! もうやめてって言ってるでしょっ!」  本気で怒った彼女に俺達は萎縮した。  「ご、ごめんなさい………」  そして彼女は何かを思い出したかのようにこう切り出した。  「あっそうだ。お互い初めましてなのにまだ名前も言ってなかったよね。初めまして、『川島(かわしま)レオ』です」  「ああ、そう言えばそうだった。初めまして、俺は『(かじ)トオル』。トオルでいいよ」  「川島さん初めまして、『前田(まえだ)ショウ』です。ショウって呼んでください! よ、よろしく」  「トオルくんとショウくんね。こちらこそよろしく」  「川島さんって何組?」  「レオでいいよ。私は一組。トオルくんは五組でしょ」  「えっ、なんで知ってるの?」  「教室に入ってくところ見た事あるから」  「そ、そうなんだ。こんな事言うのも失礼なんだけど、同じ高校に通ってるのに俺だけ情報がなかったというかその、川………、レオさんの」  「レオでいいって」  「ああごめん。レオが同じ高校にいた事さえ知らなかった」  「えー、うそでしょ。なんかちょっとショックだなあ」  「いやホントごめん。俺周りとかよく見てないというかなんというか、そういう所が抜けてるんだよね」  「そうなんだ。私は入学初日からトオルくんの事知ってたけどね」  「えっ!?」  レオはにんまりと微笑んでいた。まさかこんな美少女に見られていたとは思いもしなかった。しかも入学初日だ。俺は嬉しさのあまりつい口角が上がってしまった。
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