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『Sho』 辻堂駅西口改札を出てから徒歩五分の場所にちょっとした広場がある。木々が多いその場所は、春になるととても美しい桜が咲き誇り、近くを通る人達を魅了する程の桜並木が連なっている。その広場の名を、『さくら広場』と呼んでいた。 俺のお気に入りというよりかは、思い出となった場所と言った方がいいだろう。毎年春になると桜を見るためによく訪れる。 「今年も綺麗な桜が咲いたなあ………」 今日の天気は晴れ。絶好のお花見日和だ。 友達同士や家族連れが足を止め、桜の木を見上げていた。また写真を撮っている人もちらほらいた。 またこの季節がやってきたか。何度歳を重ねてもここだけは相変わらず変わらないなあ………。 余程の人生経験をしてきた口ぶりだが、俺はまだまだ二十七歳だ。地位も名誉も財産もなければ社交的な大人でもない、ただのゴミカスクズ野郎だ。自覚しているし、誰かにそう言われても受け入れる他ない。 すると突然きゅっと心が締め付けられた。痛みに我慢出来ず、胸の辺りを手で押さつけながら一先ず息を整え始めた。 毎回ここへ来ると胸が痛くなる。その理由としては、過去にあいつ(・・・)と他愛のない会話で盛り上がっていた事や、彼女(・・)との出会いや別れ等を思い出す度に辛くなってそして胸が痛くなる。 当時の悔しさと切なさに加え、自分自身の無力さに怒りさえ覚えた事もあった。簡単に言えば心の病だ。精神力が脆く、心にちょっとしたダメージを負うだけで傷が開くとても厄介な病気を抱えていた。 ちくしょう、早く治まってくれ………。 この美しい景色を見て癒されに来たはずなのに、毎回過去を思い出して辛くなるのでは逆効果だ。毎年春に訪れ、ただ心に釘を打ち付けられに来たバカな人間としか思えない。 変わんねえな俺は………。全然強くならねえし、寧ろどんどん弱くなってる気がする。 訪れた人達が賑わう中、一人だけ浮いている存在にしか見えなかった。 くそっ、なんで俺だけが惨めな思いしなきゃならねえんだよ。お前ら幸せそうな顔してんじゃねえよ。何笑ってんだ………。 イライラが募る中、突如として強風が吹いた。目を開けていられず、風が止むまで瞼を閉じた。 風までも俺をバカにしやがるのか。どいつもこいつもなんなんだよ、俺をコケにしやがって。てめぇら全員あの世に………。 風が弱まり、瞼を上げたその瞬間、見た事のない光景に思わず驚愕した。強風に煽られた桜の木から何百、何千もの花びらがひらひらと宙を舞う。 そしてゆっくりと地面に落ちていく花びらがまた妙に美しく感じ、俺の淀んだ汚い心を綺麗さっぱり消してくれた。幻想的な桜景色は、目だけで記録するには勿体なかった。 「すげぇ………」 感動のあまりつい口から言葉が溢れた。桜を見に来た人達は大いに盛り上がり、隣同士で笑顔を見せ合っている。周りが浮かれている中、俺は桜の花びらが散っていく光景をただ茫然と見つめた。
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