猫跳寺

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 目の前には小さな川が流れている。そのまま流れに沿って下って行けば、未だ見ぬインレー湖に出るはずだ。反対の上流側には、例の屋根付きの橋が遠目に見える。橋を渡った対岸の辺りには、外国人向けのレストランがあるようで、アジアの雄タイガービールの電飾看板が眩しく目に映る。今夜は禁酒禁煙の大男に遠慮して、サービスのお茶だけで我慢したが、明日の夜はあそこでビールでも飲みたいものだ。  僕はレストランのネオンを眺めながら、昼間、あの橋のたもとで出会ったもう一人の男のことを思い出していた。それはスコットランドの大男とは対照的に、浅黒く日焼けした、小柄な現地人のオヤジさんだった。  僕は日中の猛烈な日差し避けるため、屋根付きの橋の上で日陰に入り、涼をとっていた。日向の路上なら、恐らく四十度近くまで気温が上がっていただろう。川の上ということもあって、ニャウンシュエの街の中で、この橋の上だけが別種の心地よい空気が流れているようだった。
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