猫跳寺

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 最初に僕が彼を目撃したのは、首都のヤンゴンから、内陸部の古都マンダレーへ向かう列車の中だった。車内にいた外国人は僕と彼の二人だけで、彼は僕の二つ前の座席に腰掛けていた。首から上の部分が、リクライニングシートから完全にとび出していたのが妙に印象的だったのを覚えている。出会いと言っても、トイレに立つ時などに会釈する程度で、お互いに相手の存在を認識し合っただけという表現の方が正しいかも知れない。その時それ以上のことは何もなかった。  その後、マンダレーの街中と、遺跡の都パガンの寺院の回廊で二度目、三度目の再会をすることになるが、長身の彼は、とにかくどこにいても目立っていた。雑踏に紛れていても、小柄なアジア人の中で、彼は頭一つとび出た存在だった。そして、その右肩には、いつも巾着型の小さな水色のリュックを掛けていたのだ。僕が小学生だった頃、遠足用に流行っていた、口ヒモと肩ヒモが繋がったタイプのものだが、それは明らかに、彼の身体のサイズに合っていなかった。
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