猫跳寺

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 彼は僕を認めると、二度とも笑顔で手を振ってくれた。僕もそれに応えて手を振ったが、上手く笑顔がつくれたかどうかは疑問だった。結局、簡単な言葉すら一度も交わすことなく、三度の出会いは過ぎていった。個人旅行が解禁になったとは言え、政情が不安定なミャンマーでは、旅行者の移動可能なエリアは限られている。自然と、そこに定番のコースがつくられ、その線をなぞりながら旅を続けていれば、同じ旅行者と何度も再会するというケースは、物理的に大いにあり得ることだった。    ただ、人間とはまことに不思議なもので、見知らぬ国を一人で旅していたりすると、そうした確率の高い偶然さえも、ある種の運命のように思えてくるものなのだ。  三度目の出会い以降、僕は初めて訪れる街を歩く度に、視界のどこかで無意識のうちに彼の姿を探すようになっていた。そして、ここインレー湖への拠点ニャウンシュエでとうとう僕は彼と四度目の出会いを果した。
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