猫跳寺

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 水色のリュックの中から取り出したミネラルウォーターを飲みながら彼は言った。旅慣れた人だと思った。確かにアジア広しといえどもフライドライス、つまり焼飯ほど、どこにでもあり、味に当たり外れのない料理は他にない。ミャンマーにもカレー風の民族料理があり、バラエティーに富んでいて、味もそこそこいけるのだが、総じて脂っこく、一度下痢や胸やけになると、暑さなども手伝って、容易に手が付けられなくなる。僕も近頃はミャンマーの猛烈な暑さに夏バテぎみで、毎晩のようにフライドライスのお世話になっていた。  外国人向けにアレンジされ、民族色のない地味な印象だが、フライドライスはアジアを旅する人々にとって、現地の料理に飽きた時、欠くことのできない便利で都合の良い料理なのだ。  そんなフライドライスを二人で食べながら、彼は自分が韓国で英語の教師をしているスコットランド人であることを話し、僕は自分がアジアで写真を撮り歩いている日本人であることを話した。猫跳寺の話が出たのは、その後のことだった。 「私は猫跳寺を見るためにミャンマーへ来たようなものなんだ・・・」
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