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ようやく誘うのを諦めた彼は、何となく名残り惜しそうな雰囲気を漂わせていた。僕はこれまで自分のたどたどしい英語に根気よく付き合ってくれたことについて礼を言い、寂しそうな彼を元気づけるつもりで、また猫跳寺の話を振ってみた。
「明日、湖のファンタスティックなお寺で、もう一度会えれば、本当に最高ですね」
彼にいつもの優しい笑顔が戻った。僕たちは、それぞれの宿に帰るため暗がりのT字路で別れた。彼は一度闇の中で振り返り、そして叫んだ。
「シー・ユー・トゥモロー・ケンタロウ!」
まずかった。
僕は自分の名前だけを名乗り、彼の名前を尋ねなかったことを後悔しながら、黙ったまま手を振った。明日会った時、一番に聞いておかなければいけない。
肩に小さなリュックをぶら下げた背の高い影は静かに闇の中へと溶けていった。
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