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最後の地権者/その5
アキラ
また新記録、更新しちゃったよ!
”毒味”からしばらく、玄関框に腰かけてたんだけど…
その間、だいたい30分弱、世間話をしてた
例の”一呼吸置いた”あの間合いで…
で、そのあと泉さん、何とオレを室内に入れてくれた
1階の居間に通されて、テーブルに寿司皿を置いた
泉さんは一緒に食べようって、キッチンから醤油を持ってきた
...
この寿司、”みなと寿司”ってとこからとったんだけど…
後から聞いた話じゃ、ここの寿司、泉さんすごい好きだったんだって
子供のころからずっと、慣れ親しんだ味だって…
誕生日とかそんな時、いつも目の前には、この大皿があったという
ところが、数年前、この寿司屋とひと悶着あったという
まあ、どっちが悪いとか云々の話じゃなかったらしいが…
先入観はよくないが、この人、ぶつかると妥協しない感じだし
とにかく、それ以来、泉さんは寿司を注文できない状態だったらしい
という訳で、数年ぶりの”懐かしい味”だったと…、目の前のコレは
しかも、大晦日に”味わえた”ことが、単純に嬉しかったらしい
...
泉さんはおいしそうに”みなと寿司”を食べてる…
思わずこっちの頬、崩れるくらいに、うまそうに食べてる
実際、この寿司、うまいし…
...
居間の時計に目をやると、午後8時50分だった
その頃は寿司、二人でだいたいたいらげてた
そこそこの会話して
「泉さん…、いつもうるさくしてて、すいません。とりあえず来年もよろしくお願いします」
そろそろと思い、オレは一石を投げた…、この難敵に
すると、みなと寿司を口の中でモゴモゴの泉さん、急にキリッとして、
「それ、アンタの言葉なの?それとも建田とか、相和会とかの”伝言”なの…?ここは、はっきりさせてくれるかな?正直に言ってよね…、わかる?言ってる意味?」
わー、やっぱり凄いや、この人…
...
「オレの言葉、自分の気持ちです。それで、オレ、今”特殊”な立場なんで、もしお伝えすることあれば、”それなり”に持ってけると思うんですけど…」
「...」
今度は二呼吸くらい間があった
「私もここで一世帯だけでさ、いつまで粘っても所詮って気持ちもあるわ…、正直…。でも、ここで意地貫かないと…、ね?私、これ以上言う気、ないから。あとはあなた、帰ってから”それなりに”伝えてみたら?あの極道どもに…。又、来年ね…、それも。今日はそれで、もうなしね」
大みそか…、新しい年の数時間前、”行かず後家”と呼ばれてる中年のおばさんは、やけにカッコよかった
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