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最後の地権者/その7
アキラ
オレは隣にいる建田さんに、泉さんの感触を自分の言葉で伝えた
泉典子さんは、最後の一世帯という状況は十分理解している
ただし、プライドというか、意地みたいな、譲れない気持ちも強く持っているようだと
建田さんは俺の顔、じーっと見つめながら、噛み砕くように聞いていた
「いいかアキラ、年明けたら、まず挨拶に行って来い。玄関先で軽くでもな。そん時は手ぶらでもいいだろ。あくまで、お前個人というニュアンス持ってもらえるようにな…。それで、そのあとだが…」
建田さんはその都度、考えを巡らせながら、しゃべってるようだ
「次は外で買い物でもしてる時、偶然装って声かけてみろ。そうだな、ギターを肩に背負ってた方がいいな。ここでは立ち話でなんでもいいから、なるべく長く話してみろ。何でもいいぞ。向こうから何か聞かれて、お前が答えるパターンがいいな、とりあえずは…」
さすが、この手の発想はポンポンと頭に浮かぶようだ
建田さんの商才に憧れている浅田さんが思わず声を上げた
「親分、すごいっすよ。なんでそう、閃いちゃうんですか?」
すると、北原さんが言った
「浅田!これ、兄貴の才能なんだよ。お前、よく勉強しとけな」
「はい、俺、是非、親分に付きっきりで…。アキラ、親分のレクチャー通りやってりゃ、話進むかもよ、がんばれな!」
浅田さんがオレにエールを送ってくれてる…
「よし、いいか。行かず後家はアキラが担当だ。年明けからアキラがソレ、優先できるように、間宮、余分な用はお前やれ」
間宮さんは渋々という表情で、頷いてる
またあの人の気分、害しちゃっただろうな
どうもあの人とは相性悪いや
...
こうして、オレは泉さんの交渉担当になった
組の事業にタッチすることに反対だったタカさんも、この展開には苦笑いだった
「無理はするなよ、アキラ。あんまりな」って言ってくれた
結局、この夜は深夜まで盛り上がり、マッドハウスで年を越した
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