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最後の地権者/その8
アキラ
次の年は、正月3日からマッドハウスに出た
とにかくバンドブームは根強い、今年も続きそうだ
ステージが終わり、控室のいると、建田さんが入ってきた
「おう、アキラ、ライブお疲れさん!去年はよくやってくれた。今年も頼むな」
相和会の大幹部が、オレに右手を差し出してる
迷ったけど、オレも右手を出し、握手した
いいのかな、これって?
後ろでは間宮さんがじーっと見てるし
「これ、お年玉だ。ははは、子供だましだが、受け取ってくれ!」
お年玉袋だ、あの和紙で硬い小さいヤツ…
「あの、オレ、組関係ないんで、これはちょっと…」
「ははは、タカが盛んに言ってるもんな。いいから、気持ちだ。ホントに子供だましだ、ハハハ…。正月だからよ、貰ってくれや」
オレは受けとった。ここできっぱり拒絶できてりゃ、今、ここにいない
こういうの、ホントはまずいんだろな、今年も繰り返しかもな…
自分の心の奥くでは、致命傷って気が付いてるんだが、こういうの…
...
建田さんは対泉家のシュミレーションを年末年始、ずっと熟考していただろう
最後の地権者を落とせるか否かで、数億入るか入らないかだ
オレはその最前線に、自分自身で追い込んでた
とにかく建田さんは、オレに細かい指示を出す
だが、それは今までのような命令調ではなく、頼込むような切り口だった
反面、常にそばにいる間宮さんには、怒鳴りつけて指図してる
...
オレは建田さんの台本通り、概ねこなした
買い物の最中に”偶然”会った2回目の時は、30分立ち話した
そして1月の中旬過ぎ、数年ぶりに大雪が降った
オレは、建田さんからスコップを渡された
「まず、マッドハウスの前の雪かきやって、ひと汗かけ。そのあと、しばらく外で佇んでろ。周りの家も概ね、除雪始めた頃見計らってな、それ持って、行かず後家のピンポン鳴らして来い。女手だけでこの状況下、手を差し伸べてやる。他のヤツじゃダメだなんだ。お前だけだ、この役、有効なのは」
この時は建田さん、表情が厳しかった、いつになく
要は勝負どころだ、ということなんだろう
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