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最後の地権者/その11
アキラ
その出版社は、最近も大物政治家の金銭スキャンダルを記事にした
権力や圧力には屈しない報道姿勢が、とかく評判のようだ
典子さんも例の計略を何社かに持ち込んだようだが、どこも消極的だったそうだ
そこで、市民運動に精通した周知の知人から紹介してもらったらしい
結局、その特集はかなりの反響で、2週連続で掲載したこともあり、売上部数も合計ではまずまずだったらしい
その後、TV局の取材も申し込まれたが、典子さんはさすがに断ったとか…
「その出版社、ここの地上げの件は興味持ってね、今も時々来るのよ、新しい情報ないかって。なんか、徹底追及、考えてるみたい。もともとは、相和会自体を標的にして動いてたらしいから。まあ、私もそこまではね…」
典子さんの良識っていうか、ほどほど加減が分かった気がして、なんかほっとした
「そこ、”現代リサーチ出版”っていうところなんだけど、もしあなたのことも嗅ぎ付けて接触してきたら、きちっと断ってね。悪いわね」
この人、こういう気配りもストレートだ、いいわ…
...
こういった話の場を何度か重ね、2月末に”局面”となった
具体的な条件の”打診”がきたのだ
泉家の条件提示は概ね、こうだ
女二人、これからの生活の糧として、収益物件を所有したい
地域的にもお母さんの生まれ故郷に近い、仙台近辺に絞っている
現在、競売物件をいろいろあたっている
次の住まいは落札したアパートの一室か、その近くに家を買いたい
資金は総額、立ち退き資金でカバーしたいので、それが最低条件
ついては、こちらの事情に合わせて、資金の捻出、退去の猶予等を摺合せも条件となる
ざっと、こんなアウトラインだった
...
オレは不動産や法律関係には詳しくないが、このラインなら、交渉は土俵の範囲内だと判断できた
「率直に話してくれてありがとうございます。さすがに権限は僕以外になりますので、泉さんサイドに立って、今の内容かみ砕いてみます。その上で、建田さんに伝えます。それで、了解いただけますか?」
典子さんは無言で頷いただけだった
「お母さんやその他、例えば親戚の方とか、この方針が固まったあとで、失礼ですけど翻意とかは、大丈夫でしょうか?」
かなりズバッと聞いたが、典子さんはニコッとして言った
「そのあたりは私を信じて。あなたに迷惑かけないようにすること、礼儀だとは心得てるから」
つくづくあっぱれな人だ…
”行かず後家”とかバカにしてる連中に、この場を見せたいよ!
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