久我さんという人

6/6
前へ
/7ページ
次へ
まさか取り立て……? こんな時間に? いや、時間とか関係ないのかこういう人たちは 夜逃げ、とかそんな言葉もあるもんな 取り敢えずあれだ、目合わせたらダメ だけど、なんでだろう 目が離せない、足が動かない 頭ではぐるぐる考えられるくせに体が言うことを聞かない 恐怖なのか好奇心なのか、胸もドキドキする やばい、やばい、やばい 意味もなく唾を飲み込み、ぎゅっと服の裾を握ったのと同時だった あ、目が… ゆったりとこちらへ歩きながら視線を上げたその切れ長の瞳と、交わってしまった その瞬間、プチッと糸が切れたように体が軽くなった そして、踵を返し足早にアパートの2階へ 僕の部屋は階段から1番離れたところにある角部屋 普段ならなんとも思わない距離が、今日はものすごく遠く感じる 何度も躓きながら鞄の内ポケットに入れている鍵を取りだし、小さく震える手で鍵穴に通す なにこれ、なんで震えてるの ただ目が合っただけなのに やっとの思いで扉を開け、部屋の中に滑り込む はっ、と息を吐きながら扉に背をあずけ震える手を握り込んだ たぶん、怖いとかそういった感情とは違う 圧がかかったわけでもない だったら、この体の奥底からじわじわ来る感覚はなんだろう 初めての感覚で戸惑う イケメンすぎたのかもしれない それで…、 妙に昂る気持ちに理由が欲しくて必死に考えていると、コツコツコツとこちらに近付いてくる足音が聞こえた
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加