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「わたしがつかうの」
「わたしがつかってるんだからだめ」
声が上がったため駆け寄ると、私の子供達は大きな熊のぬいぐるみを引っ張り合っていた。このままでは喧嘩になると思い注意をする。
「千枝は人が使ってるものに勝手に手を出しちゃだめ。千佳はお姉ちゃんなんだから、千枝に譲ってあげなさい」
お姉ちゃんである千佳は、渋々といった様子で千枝に熊のぬいぐるみを渡す。千枝は、ぬいぐるみを貰うと嬉しそう顔で抱きしめている。
「流石はお姉ちゃんだね。えらいえらい」
千佳の頭を撫でて褒めてあげると、心なしか恥ずかしそうな表情を浮かべた。
「ただいま」
玄関が閉まる音と共にお父さんの声が聞こえてくる。千佳は俯むいていた顔を上げると立ち上がり、ダッシュでお父さんのところに行く。
「だっこ」
千佳は両手を広げておねだりをする。
お父さんは靴を脱ぐとすぐに千佳の脇下を掴み持ち上げる。抱っこされた千佳は満面の笑みを浮かべていた。
そこに、ぬいぐるみで遊んでいたはずの千枝がお父さんの脚に向かって突っ込んでくる。
「わたしもわたしも」
「順番だから、ちょっと待ってな」
千枝にそう言うと、抱っこしていた千佳に対しても後三十秒で終わりだと告げる。
「モテモテね。あなた」
「ハハ。困ったもんだな」
そんなことを言うお父さんの表情は、言葉とは裏腹に楽しそうに笑っていた。
ほぼ毎日見ているこの光景も、何年か経てば無くなってしまうのかと思うと少し寂しい気分にもなる。現状はうるさくて仕方がないんだけど。
とりあえず今はこの光景を目に焼き付けておきたいと思った。
まだ暫くは、姉妹の取り合いが続きそうだ。
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