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大学にただ通って。
何となく、生きて。
気付いたら俺は、高校の生物の教師として、研修で母校に来ていた。
多分、もしかしたらアイツがいるかもしれないという淡い期待を持っていたのかもしれない。
いや、いたとしても、俺に気付くだろうか。
……拒絶されるだろうか。
なら、前髪も上げて、メガネもかけて、話し方も変えて………。
「……今日で、最後のクラスか………」
研修は色々なクラスに挨拶にまわる。
たが、どの学年のどのクラスにも、アイツはいなかった。
今日が、最後の望み。最後の1クラス。
「……あれ、教室の鍵、開いてんな……生徒にしては、はやすぎない……か…」
「…………」
パッチリとした大きな目と、かち合う。
ニコッ
「……おはようございます?」
あぁ。懐かしい。
「………良かった‥‥」
「えぇ?」
「………いや、何でもない」
「あはは、なんですかソレ」
『俺』の、一挙一動に朗らかに笑う君。
「……『僕』は研修生の九郎。三宅九郎です。これからよろしく」
「え、急にですか??まぁ、良いか。私はアイリです。よろしくお願いします、先生」
「……ああ。よろしく」
そうだ。ここからでいい。
ここから、また始めれば良いんだ。
「お腹空いたな……」
「え、大丈夫ですかそれ?」
「ううん、無理。何も持ってきてないや」
「私大食らいなんで、おにぎりありますけど……食べます?」
「………砂のおにぎりは勘弁ね」
「あはは、そんなの人にあげるわけないじゃないですかー」
「うーんどうだか。……まぁでも、ありがとう」
「いーえ。どういたしまして?」
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