そこから

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そこから

彼女はいつも学校に来るのが早い。 多分、校長と家が近い先生と、僕の次に。 「……お家の人が送ってくれてるの?」 「あー、祖父母はもう他界してて……今は残ったお金とか、手当とか、バイトとかで一人暮らし中です」 「……そうなんだ。……お父さんたちは?」 「それがー、私、昔なんか事故にあったらしくて‥‥昔の記憶がこう、すっかり抜け落ちちゃってるみたいで。………思い出そうとするとこう、頭がズドーンって、かち割れそうなんですよねー」 「え、何それ?…ドラマみたいだね」 「ですよね!!私も思います!なんで、ちょっとずつ試してはいるんですけどー。どうします?私がお金持ちの娘だった!とか政府の秘密の実験体だった!とかだったりしたら?」 「ふははっ、それはそれで面白いし、良いんじゃない?」 「もー!笑い事じゃないですよ!私と先生とが兄妹だったり……」 「それはないよ」 「え、そんなバッサリ切ります?仲良くなれたと思ったのにー」 「いや、仲良し仲良し。ただ、兄妹だと困るんだよねー」 「えぇ…?私家事出来るし、何も問題点なくないですか!?料理だってめちゃくちゃ上手いんですよ〜っと、見せるから待ってて」 「え、なに」 「お弁当!」 「ベントウ………」 「自分で作ってるんですよー……ほら!」 「………ふ、」 「え、何?何で笑ったセンセ?」 「…………いや、『俺』の好物ばっかだなーって」 「えウソ!?凄くない!?やっぱり私たち、兄妹………」 「だからそれは無いって」 「うう………何でそこだけ否定すんのさセンセー………」 「だから、」 気付け。 「っ、!?」 早く、気付け。 「…………兄妹だと、困るんだって」 さらりと後れ毛を取って、顔を寄せる。 「……ね?」 何年も何年も待ったんだ。 このくらい、なんてことないだろ? 「……え。えぇっと………え、えぇ!?」 「ハハハ。ウブでなにより。大人を舐めるんじゃないよ」 「…………ひゃい……………」 絶対に、逃さない。 例えもし、君がもう一度僕の前から消えたって。 『俺』は絶対に追いかけて、見つけ出す。 そしていつか、彼女自身から、 『俺』の存在を思い出させてやる。
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