勇者誕生の地

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勇者誕生の地

勇者。 それはこのホムラの地に与えられた天からの至高の贈り物。 ただ、勇者とは本来魔王と対になる存在である。 勇者が召喚される…誕生するということは、魔王の現れをも意味する。 「………」 「まーた異世界の勇者サマが物思いにフケッてるぜ」 「…すまん」 こいつは第3王子アルヴェルト。通称アル。 銀色の短い髪に緑の瞳を持つ王族。 第1王子は騎士団長、第2王子は国王秘書とかなり有能な兄弟をもつ。 本人は自分は余り物だと言っており、少々ひねくれた性格をしている。 「も〜、最近いつもそうよね〜。次やったら本当に置いてっちゃうよ??」 こっちはネルケ。庶民出で勇者パーティーという中々な強者。赤茶色の瞳にオレンジの短い髪で、良くも悪くも自信家な性格。 「前魔王側近に会われてから、何かあったのですか?」 こちらは聖女コーデリア。こちらは学園に在学中、神の信託を受け、勇者パーティーに来ている。白く長い髪に桃色の瞳の物静かな女性。 「……いや、特に何も」 「そう‥‥ですか」 「俺達が知ってるのは、シュラーフが言ってた魔王復活が確かなことだけだろ?」 「ま、今のところはそーよねー」 「直後のほうき星も、彼女のものでしたよね?」 「あぁ。人間好き‥‥とまではいかないが、今回は中立。変に刺激せずこれからは接触を控える」 「えぇ?もっと情報聞き出せないの〜?」 「さっきも言ったが、あくまで中立、だ。あまり深追いは出来ない」 「そっかぁ〜」 「ま、今ここで考えてたって何かが変わる訳じゃねぇしよ。今日のところは解散といこーぜ」 「構わないですか?」 「あぁ」 「勇者ユーキ君が言うなら、解散かいさん〜っと!」 「おっしゃ昼めしだ!」 「あ!あたしも〜」 俺が考え切れていない、すぐ近くの可能性‥‥。 「ユーキ様‥?」 「あ、悪い。お前も解散で大丈夫だぞ」 「いえ、何かもし気がかりがあるのなら‥私もお力になりたいのです」 「そう‥‥か。そうだな‥‥」 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 「すぐ近くの可能性、ですか‥‥」 「あぁ、何か分かりそうか?」 「いえ‥‥」 「そうか‥‥」 「あっ、でも……」 「何か分かるか!?」 「い、いえ‥そこまでではないのですが‥‥‥」 「それでも良い。今はどんな情報でも欲しいからな」 「‥‥すぐ近くの可能性、というのはやはり、我々に近い者‥例えば、この国の誰かが魔族側に‥‥とか」 「あぁ、そうだな。だがそれだと少し意味が違ってくるかもしれない。シュラーフは自身が勝てない存在=すぐ近くの可能性、という内容だったからな」 「それでは、人間が魔族に寝返ったとは違いますね‥‥。話の内容がそうなら、人間が魔王になるという風に聞こえます‥‥」 「あぁ、元来魔王とは魔族の王。魔族を統べるもの‥‥‥いや待て。もしかしたら‥‥」 「しっ、しかしそれでは本にあった魔王の情報とは異なります‥!魔王はいつだって魔族ですもの」 「いや‥‥確か文献ではそうなのだが‥‥。魔王は魔王でも、魔族なのは変わりないが、魔族の種類は違ったはずだ」 「というと‥?」 「牛頭の魔王や鱗の魔王とか、全然種類が違うだろ?しかも、血族を重視したり、力を重視したりとあまり規則性が無いんだよ」 「なるほど…でもそうなると…」 「‥‥人間が魔王になる可能性も、まぁ無くは無いというわけだ。‥‥かなり低いとは思うがな」 「人間は魔族に力が劣っていますもの‥‥。人間の持つ知識、そして一人ひとり神から与えられた魔法でしか対等になれません‥」 「あぁ」 だが、可能性だけ。 そう、可能性だけ頭に置いておいて悪いことはないのだから。 身近な、可能性。 「おっとすまない。結構長く話し込んでしまったな。お礼と言っては何だが、飯を奢らせてくれ」 「まぁ!良いんですか?‥‥では、あそこの‥‥」 「おじさんコレもう10皿!」 「ま、まじかよ嬢ちゃん!!これで30皿目だぞ…!?」 「あ、大丈夫ダイジョブ。お金はちゃんとありますから!」 「いやそういう話じゃねぇって!!」 「あらあら‥‥可愛いお嬢さんがあんなに‥‥」 「いや、俺でも5皿だぞあれ‥‥‥は」 「モグモグ‥‥‥ん?」 「‥っ!!!」 キィィィィン!!! 「なっ、何をなさるのですかユーキ様っ!?」 「おっととと、危ない危なーい」 今、確かに‥‥。 確かにこの少女の目が、魔王の象徴である金色の瞳に見えた。 それに、毎日魔族と戦う俺の速さをものともせず、器用に皿を全部持って避けただと‥‥? 「あの‥大丈夫でしょうか…?」 「あ、全然大丈夫ですよー!料理も溢れてないし、怪我もしてないです!」 「そう‥‥でしたか……」 コーデリアも、違和感を感じたらしい。 「ふー、じゃ!私はまだ食べるのでー」 「はい……ごきげんよう……」 「すまん、そこに魔者がいたような気がして……」 瞳は‥‥明るい茶色か。髪と、同色……。 だが、金色では、ない。 「あはは!魔物の気配は無いんで気の所為じゃないですかー?」 「……そうだな。本当に澄まない。……俺はユーキ。勇者をやっている」 「勇者……?えっ、初めて見たー。こういうのって、ゲームでしか見たことないや」 「げえむ……?」 「‥‥‥名前を、聞いても良いだろうか」 「あっ、私ですか。私はアイリと言いますー。ただの旅人なんで勇者様ほど誇れるものはなーんも無いですけど。とりあえず腹ごしらえしてた感じですねー」 「アイリ‥‥あいり‥‥‥変わった名だな」 「えっ、あぁ~~まぁ、変わってるのかな?」 「まぁ良い。後でお詫びしたいから、泊まる宿だけ教えて貰えないか?」 「あぁ~~えーーっと‥‥今日、はまだ宿見つかって無くて‥‥」 「そうなのか?なら、俺がいい場所を‥」 「いやっ、仲間が探してるんで大丈夫です!」 「そ、そうか‥‥」 「お詫びも大丈夫です!なんとも無いですし‥‥ねっ!」 「‥‥‥‥分かった。本当にすまない。また今度あったときにはきちんと詫びと礼をさせてくれ」 「はいはーい。じゃ!」
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