地底

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少女たちは身を寄せ合い、震えていた。懸命に恐怖を堪えているのだろう。元凶は当然、黒田たちふたりの「()」だ。 目の前の被害者(クローン)たちは十代後半の肉体を持っている。女性として子供を産むための機能を備えていても、実際には生まれてから三年未満の幼児だ。仮に人身売買の被害を受けているとすれば、彼女たちにとって男性は恐怖そのものでしかない。 「どうします? 応援を待ちますか」 「あゝ」 黒田はそれを、「待つ気はない」という意味だと解釈した。 現在消息を絶っている二海院長は、証拠を隠滅するため、つまり目の前の少女たちを「処分」するために、ここへ来るかもしれない。被害者は目の前の3人だけではなく、他にもいる可能性がある。たとえば彼が幽霊と見間違えた、白い服の少女だ。のんびりと、ただ待っているだけ、という訳にはいかなかった。 現場にいるトクホは湯浅と自分のふたりだけ、という状況で、被害者3名の保護と地下室の調査、院長の捜索をしなければならない。 「佐伯さんに降りてきてもらいましょうか」 「呼ばなくとも、必要と判断すれば自分で降りて来る」 「警察が裏口を固めている頃です。呼んで、手伝ってもらうのはどうでしょう」 「令状が無い」 湯浅の言うとおり、警察はトクテンケンを行使できない。人手が足りないというだけの理由で、トクホが第三者に権限を譲渡、または付与することはできなかった。 クローン法に基づく強制捜査権と、令状不要の逮捕権を持っているのは特定保健衛生調査官(トクホ)だけだ。警察が介入して良いのは、トクテンケンで犯人を確保した場合か、トクホが殺傷されるなどの現行犯逮捕が可能な場合に限られる。 「トクテンケンの行動計画(プラン)を見直す必要がありますよね」 「あゝ」 現場経験が豊富な第一課の課長、湯浅はわずかに左眉を上げた。今回は、黒田の提案が彼の意図と同じだった、ということだろう。 「ここにひとり。被害者の保護と出入り口の見張りを行う」 もうひとりが部屋を探索する。調べると言っても、この部屋に置かれた調度品はソファだけだ。出入り口も彼らの背後にある階段室のドアを除けば、奥にある重そうな金属製のドア、それと少女と思われる人影が消えたアーチの2か所だけであった。被害者の少女たちは怯えきっているのか、床にしゃがみ込んだまま動かない。
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