地底

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ふたりでこなせない業務量ではなかった。問題は、誰が、どちらを担当するかだ。 「ドアの先に別の番犬がいる、なんてことはないでしょうか」 「あゝ」 可能性は限りなく低い、ということだろう。 「突入時、右手のアーチに白い服を着た女性と思しき人影がちらりと見えました」 湯浅は表情を硬くして、アーチのある部屋の奥へと目を移した。 「先に奥の扉を確認するか。錠が下りている場合は固定して、誰も入室出来ないようにした方がいいな」 「僕はどちらを担当すればいいのでしょう」 「黒田さん、選んでくれ」 言葉は投げやりだが、なるべく部下に負担(ストレス)をかけないよう配慮しているのだ。彼は急いで答えた。 「僕は室内および出入り口をチェックします。被害者の保護をお願いしていいですか」 「あゝ」 ほっと胸を撫で下ろす。彼は引け目を感じていたのだ。 湯浅は妻帯者で、すでに成人した娘がいるという。妻も娘も美人だと評判だから、この状況でも落ち着いていられるのだ。一方、黒田は生まれてからこれまで、女性と付き合ったことがない。 目の前にいる被害者少女たちの実年齢は低い。知能や精神は乳児か、せいぜい保育園児程度だろう。だが薄物の下は、女性として十分に成長している。彼ひとりで3人を引き受けるなんて、荷が重かった。 ましてや事情を聴取するために近づいたり、少女たちが逃走を図った場合に取り押さえたりするなど、考えただけで顔から火が出そうだ。 トクホという仕事の性質上、保護すべき対象の女性に対して劣情を抱くべきではない。頭では十分に理解しているが、黒田はまだ若い。扇情的な格好をした18歳くらいの女性たちを、意識せずにはいられなかったのだ。 湯浅がヘッドホンを2回タップして、佐伯と短い打ち合わせ(ブリーフィング)を始めた。黒田のさ迷う視線は、床から彼を見上げている少女の顔をとらえた。 迷子のように真剣な眼差しだ。彼を威嚇するような、それでいてひどく怯えたような表情をしている。彼女にとって、すべての男は苦痛と暴力をもたらす化物なのかもしれない。 黒田はやっと、被害(クローン)少女たちは守られるべき存在である、と実感した。 「始めるぞ」 湯浅の声は、力強い。 「おう」 黒田は負けじと声を張り上げた。
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