探索

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黒田はアーチの手前に立って、照明の落ちた暗い部屋を一望した。部屋は大広間よりもはるかに狭いが、彼の住む官舎の2DKに比べると、倍ほども広い。 階段下の入り口からでは壁に開いた黒い穴にしか見えなかったが、隣室は居住用の空間として使われているようだ。壁際に並んだ3台のキングサイズのベッド、絵本やぬいぐるみが入った棚、床にクッションが数枚と、いくつかの玩具が散らばっていた。 左手の壁に、ドアがある。その向こうにはダイニングやキッチン、バスルームなどがあるのだろう。地下の隠された部屋に入ってから水回りの設備を見ていないし、それらを二重ロック付きの重い扉の向こう側に配置するのは不便であるからだ。 人影はない。だが少なくとも、誰かひとりは隠れているはずだ。彼らが突入した時に、白い服を着た女性がアーチへと消えたのを見た。以来、姿を見せず気配さえも感じさせないが、出入り口の限られた地下室に逃げ場はなかった。この中にいることは間違いない。 被害者は部屋に飛び込んできた、ふたりの男性に驚いて身を隠したのだろう。彼はそう思い込んでいた。だが振り返ってみれば、おかしな点があるようだ。 黒田はイヤホンを2回タップして、佐伯を呼び出した。 「僕が突入したときに、ここへ白い服の女の子が逃げ込んだと思うのですが、画像解析をお願い出来ますか」 「了解。ところで黒ちゃん、理由を聞いていいかな」 「ちらりと見ただけですが、服装や体格、行動が他の被害者と違いました。……見間違いではないと思います」 他の被害者達は身を寄せ合って怯えていただけなのに、白い服を着た少女は違った。ひと目で状況を把握して、一瞬で身を隠そうと判断を下し、行動に移している。本当に3歳以下の知能と人生経験しか持っていないのだろうかと、疑わしく思えてきたのだ。 佐伯は臨時点検の業務をこなしながら、黒田の装着しているイヤホンが記録した画像を走査してくれた。 「黒ちゃん、これじゃ幽霊か人かの区別もつかないよ」 突入時に急いで部屋の様子を確認しようとしたため、顔を左右に振り過ぎてしまったのだ。カメラは確かに白い服らしきものを捉えているが、それ以上の情報を読み取ることは出来ないそうだ。 「ふたり以上の人物が隠れているかもね。そうだ、院長はグレーのスーツを着用していたよ」 黒田は礼を言って、会話を終了した。
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