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特定保健衛生調査官が行っている業務は、地方自治体に属する保健福祉事務所および所管の警察署と連携して、クローン規制法に基づいて病院や研究施設等を監視すること。必要とあればクローン取締法を執行することであった。
トクホは警察官ではないが司法警察職員であり、クローン法の範囲内において強制捜査権と令状不要の逮捕権、強制処分令状の請求権を持っている。
具体的な職務は違法クローン製造防止のための捜査、法を犯した者の逮捕、関連施設の差し押さえだが、それらにも増して重要なのは、生み出されてしまった複製人間の確保と人権の保護だ。
万が一、保護すべき対象が見つかった場合、クローン人権法および改正児童保護法の規定に基づいて、被害者(クローン)を保護するのも彼らの重要な仕事の一つである。
現在、佐伯は有力な垂れ込み情報をもとに、二海病院内で法に基づく臨時監査を行っている。黒田達は病院裏の、地図上は存在しない空き地で待機中だ。傍証からしても、病院内でクローン法に抵触する複数の犯罪が行われていることは間違いなく、佐伯からの連絡がありしだい、内部に突入することになるだろう。
黒田の薄い頭頂部に、じりじりと熱気が沁みてきた。汗のせいか頭皮が痒くて仕方ない。タオルハンカチで額から両目の周囲、右の耳から顎の下を通って左の耳へと拭う。
まだ25歳で、すでに薄くなってきた髪の毛について、黒田は悩んでいた。日頃のケアを怠らないだけではなく、毛根再生術を施した頭皮のクローン移植を行うなど、手間とお金をかけているのだが、努力の割に効果が薄い。クローン医療も万能ではない、という悪い例だろう。
「これでは、また薄くなってしまう」
考えたことが声に出てしまい、黒田はあわてた。横にいる課長の耳にも届いただろうか。ごまかそうとして、言わずもがなのことを言ってしまった。
「佐伯さん、時間掛かっていますね」
湯浅は、「あゝ」と、返事をよこした。
親子ほども年の違う上司は口数が少ない。最近になってやっと、返事が肯定か否定かの判別が付くようになってきた。今回の「あゝ」は肯定形だ。
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